ポントカサステ水路橋と運河

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
遺跡

2012年9月30日放送「THE 世界遺産」は、ポントカサステ水路橋と運河でした。

 

ポントカサステ水路橋と運河は、英国南西部のウェールズ地方デンビーシャー県の丘陵地帯を流れるディー川(River Dee)の渓谷に架けられた英国最大の運河橋です。

ちなみに「ポントカサステ」とは、ウェ-ルズ語で、「連絡橋」という意味なのだそうです。ポントカサステ水路橋を中心として全長18キロメートルの運河が世界遺産に登録されました。

 


大きな地図で見る

 

水路橋の上を走るのは船。ディー川の渓谷を跨ぐこのポントカサステ水路橋の中には、ランゴレン運河(Canal Llangollen(スランゴスレン運河))の水が通っています。渓谷の空中をクロス(横断)して運河を流している水路橋なのです。

映画「スタンド・バイ・ミー」で主人公たちが鉄橋の上を歩いていて汽車に追いかけられるシーンがありますが、それを例にすると、ポントカサステは、あの汽車の線路の部分が水路になっていて中に運河の水が流れているのをイメージすると良いでしょう。まさに空中運河といえます。

 

水路橋の長さは313メートル、最大高38.7メートルの橋桁は産業革命の賜物ともいえる鉄製で、支える橋脚は石で作られています。英国土木学会初代会長を務めた土木・運河技術の第一人者であったトーマス・テルフォード氏(1757~1834年)によって1805年に完成しました。

 

ポントカサステ水路橋の水路の溝は幅3.6メートルしかありません。歩道側には安全柵が設置されていますが、運河側には柵すらありません。誤って落ちたら谷底に真っ逆さまですね。非常にスリルがあります。

 


大きな地図で見る

 

≪水上の馬車≫

スランゴスレンは休日、観光客で溢れかえっています。目当ては蒸気機関車。ここは機関車トーマスの故郷なのです。その鉄道が生まれる以前に産業革命を支えたのが運河でした。その時生まれたのがナローボート。イギリスの運河は川幅が狭いためナローボートも細長くなったのでした。向かいから船が来れば道を譲り合い、橋も自分で上げ下げします。

エンジンがなかった時代にナローボートで50tもの貨物が運ばれました。ランゴレン運河が作られたのは18世紀終わりで、川に堰を作り運河に水を流しました。

ポントカサステ水路橋と運河は、それまでの物資の輸送手段として利用されていた陸上馬車に代わって、運河に浮かべたナローボートに貨物を積載して運輸するために建造されたものでした。ウェールズ地方で採れる岩石の一つにスレート(slate)があり、屋根瓦などの建材として利用されますが、こういった石材や石炭などの天然資源がナローボートの貨物に積載されて、リバプールやマンチェスターに向けて運ばれたのだそうです。

昔はエンジンがなかったため、馬を船の動力としていました。馬がナローボートを引っ張っていたのだそうで、運河の横には馬が歩くためのトゥパスと呼ばれる小道が備えられていて、それが運河の脇に必ずあるのだそうです。馬のための水飲み場などもあるそうです。ナローボートはまさに、水上の馬車です。

 

≪丘をこえる運河のワザ「閘門(こうもん)とリフト技術」≫

カナダのリドー運河(Rideau Canal)は北米最古で、巨大な水の階段を船が登って行きます。ベルギーの中央運河の水力式リフトと周辺(The Four Lifts on the Canal du Centre and their Environs, La Louviere and Le Roeulx(Hainault))は今もヨーロッパの大動脈。標高差67mの丘を超えていきます。

ベルギーの中央運河の水力式リフトと周辺(The Four Lifts on the Canal du Centre and their Environs, La Louviere and Le Roeulx(Hainault))については、こちらの記事も参照ください。

さてここでロックゲートとリフトゲートの違いは何でしょうか?まず、閘門はロック(Lock)、ロックゲートとも呼ばれ、水位の異なる河川や運河、水路の間で船を上下させるための装置です。閘門の特徴は、固定された閘室(こうしつ:プールのように前後を仕切った空間)内部の水位を変化させることによって河川の段差を乗り越えて航行させる仕組みです。空の状態の閘室に船が入り、下流の閘門扉と給排水装置の扉が閉じられ、上流側の給排水装置の扉が開けられて閘室に水が入り始めます。しばらくすると閘室が水で満たされて船が上流側の水位まで持ち上げられます。一方、リフトゲートも同じく河川の段差に対して船を上下移動させるための装置であることに変わりはありませんが、ケーソンロック(Caisson lock)、ボートリフト、運河用のインクライン(Canal inclined plane)などと呼ばれるリフトゲートでは、船を浮かべた状態で閘室そのものを丸ごと上下させる仕組みとなっています。

 

≪運河王国が夢見た鉄の橋≫

ランゴレン運河はロックやリフトを使用していません。起伏のある場所を避け、平らなルートを作り上げました。

そして高低差20m、最大の難関であるディー川を越えるためにできたのがポントカサステ水路橋です。それは一滴の水も漏らさない鉄製の水路橋です。19世紀始めに鉄製の水路を用いて築かれたのがポントカサステ水路橋です。溶接技術がなく、水漏れをいかに防ぐかが鍵でした。箱型パネルを連結させて反り返らせ、水の重さでつなぎ目を密着させました。驚くべきは水路橋の薄い壁、しかもなんと柵がありません。昔は強い風に吹かれながら馬が細い小道を歩いたのでした。

ホースシュー滝からポントカサステ水路橋を渡り、グレッドリッドまで18kmに及ぶのどかで憩いのある運河の流れですが、19世紀前半に鉄道が登場すると、ナローボートは貨物船の役割を終えました。やがてより早く大量の貨物輸送が可能な鉄道の普及によって、水運は輸送手段としての主役の座は明け渡し、1950年代には政府が運河の廃止を提案したりもしましたが、地元の人々に愛された運河の保存運動が実り、当時の面影を今も変わらずに伝えています。

 

≪運河と船が生んだカナルアート≫

ナローボートに華やかな装飾ペイントを施す職人がいます。彼らが描くのはカナルアートと呼ばれるデザインで、その一番のモチーフはバラと城です。暗い船内を少しでも華やかにしようと船乗りたちの妻が考えたのが始まりで、今ではインテリアにも使用されています。

 

≪水上を走るコンドミニアム≫

地元の保存運動が実り、現在は運河が蘇って、ナローボートもレジャー用に変化しました。中には今まで住んでいた家を売り払い、船を住居とする人もいるのだそうです。

老後を迎えた熟年夫婦の間で、ナローボートで全国を巡る旅が流行しています。

ナローボートは運転免許もいらず、操縦も簡単で、スピードは人が歩く速さと変わらない。ゆったりと進むボートからは穏やかな風景が広がります。

運河沿いのパブでは食事以外に宿泊もできるそうです。

ロッド・デイビスさん夫婦は運河の旅を10年続けています。残りの人生は運河の上で過ごす予定なのだとか。

デイビスさん「旅先では人の優しさに触れられる」

ポントカサステ水路橋と運河は一世を風靡した活躍の時代を過ぎた今日でも、英国風スローライフの一風景として親しまれ続けています。

 

アクセス:
イギリス ウェールズ地方デンビーシャー県(ポントカサステ水路橋、ランゴレン運河)
Pontcysyllte Aqueduct and Canal

Shropshire Union Canal Llangollen Branch

関連記事

コメント

    • k-co
    • 投稿日 (Posted on):

    2015年4月30日、名曲「スタンド・バイ・ミー (STAND BY ME)」で世界的に知られる米国のソウル歌手 ベン・E・キング(Benjamin Earl King)さんが、76歳で死去した。スティーヴン・キング(Stephen Edwin King)原作の同名映画『スタンド・バイ・ミー』(Stand by Me, 1986年公開)の主題歌としても使用された。
    アメリカ議会図書館(Library of Congress, LC)では、2015年3月、ベン・E・キングさんの「スタンド・バイ・ミー」の録音を文化的、歴史的に重要な価値があるとして保存すると発表していた。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

*

人気記事ランキング-TOP50

Twitter

  • SEOブログパーツ
ページ上部へ戻る