ジュゴンが1万頭泳ぐ海・西オーストラリアのシャーク湾:Shark Bay

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wallaby

2013年9月1日放送「THE 世界遺産 World Heritage」は、「ジュゴンが暮らす不思議な湾 ~ 西オーストラリアのシャーク湾(オーストラリア)」でした。

 

 

≪素手でキャッチ≫

西オーストラリアでカヤックツアーにでかけます。

「居た!ウミガメだ。」目の前の水中を素早く泳いでいきます。

カヤックから水中に飛び込み、なんとそのウミガメを手づかみで生け捕りにしてしまいます。

先住民アボリジニの凄技です。

 

シャーク湾の突き出た半島にはユニークな動物がいっぱいです。

お腹の袋で子育てをする有袋類の楽園です。珍獣ビルビーもいます。

海には人魚伝説のモデルであるジュゴンが泳いでいます。地球に酸素をもたらした謎の岩も存在します。

 


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≪イルカと触れ合える入り江≫

オーストラリア大陸の西の果てに広がる海上に朝陽が昇ります。夜明けとともに海面に大きな背びれが現れます。

浅瀬で待ちわびる人々の前にやってきたのは野生のイルカたちです。毎朝7時に10頭ほど必ずやってきます。人とイルカのふれあいは50年も続いています。野生を失わないようにエサの小魚を少しだけ与えることができます。

ここは世界でも希な海です。

 

まるで太古の地球を思わせる生き物の世界がありました。

孤立した大陸で独自の進化を遂げた不思議な動物ばかりです。

 

≪ジュゴン1万頭が暮らす海≫

強い風と荒波をはねつける断崖、その内側にあるシャーク湾は二つの半島と大陸に囲まれた広大な湾です。

ジュゴンが食べる海の草原があります。

ジュゴンを見つけました。

水中カメラマンのジョン・トッターデルさんは長年シャーク湾に潜り続けています。

この一帯は浅い海です。

太陽の光がよく届く海底にはサンゴがびっしりと生育していて、300種もの魚が住処にしています。

ジュゴンが餌場はサンゴ礁が途切れた先にあります。

ウミガメの後をついて行くと、浅瀬にジュゴンの親子が泳いでいました。

母親は体長3mほどで、一度の出産で子どもを1頭産み、母乳を与えながら18ヵ月つきっきりで育てます。

ジュゴンはゾウに近い哺乳類です。人魚伝説のモデルになりました。

息をするために時々水面に顔を出します。

ジュゴンが水中でエサを食べる音は乾いたムシャムシャパリパリという響きです。

「風で海が荒れているのでたくさん浮いていました。これがジュゴンの食べ物です。」

ジュゴンは海草(うみくさ)だけを食べる草食動物です。

丘から海を見渡し、一際濃く黒っぽく見える部分がすべて海草であり、ジュゴンの餌場です。

海草はシャーク湾の海域の3分の1を覆っていて、4000平方km以上の面積です。世界で一番大きな海草の草原です。

熱帯と亜熱帯の境目にあるシャーク湾の水深は平均9mで、光が届く浅い湾です。暖かく光に溢れた海底が海草を広い範囲で育んで、大群生となっています。

海草の生育にはしっかりと根を張ることができるように砂地であることも大切です。

コンブのような海藻と違って、海草は水中で花を咲かせて実を付けます。海の被子植物です。

ジュゴン1頭で1日に30kgの海草を食べます。シャーク湾はジュゴンが1万頭暮らす世界有数の生息地です。海の大草原が彼らを支えています。

 

≪厚さ10m 白い貝殻のビーチ≫

シャーク湾の奥にある真っ白なシェルビーチへ。

よく見ると浜は小さな白い貝殻がたくさん堆積してできています。その厚さは10mもあります。穏やかな海で大繁殖したのです。

貝殻ブロックの切り出し場

4000年も積み重なり、やがて石のように固まった貝殻。それを切り出したブロックは地元で石材として利用されました。現在は環境を守るため、切り出しは禁止されています。

シャーク湾観光の起点となるのがデンハム(Denham)の街です。

≪貝殻ブロックで造られたシャーク湾の貴重な建物≫

高台にある教会へ。

50年前まで、街では貝殻ブロックを使用して建物が建てられました。

真っ白な壁は、時が経つと柔らかな飴色へと変化します。

世界でたった1軒しかない貝殻ブロックでできたレストランへ。

歴史を語る貴重な建物です。

店内は貝殻が創り出す心安らぐ雰囲気を持っています。

シェフのウェイン・ヴァイニーさん「お客さんには喜んで貰っています。『壁に温かみがあって、とても居心地がいい』って。」

シーフードをシンプルに料理しているレストランです。シーフードプラッターは海老、キス、牡蠣などシャーク湾で獲れた新鮮な魚介の一皿です。潮騒のメロディを聴きながら頂きます。

 

陸地に目を移すと、ほとんど雨の降らない荒涼とした砂漠地帯が続いています。

シャーク湾の大地を空から眺めると丸い斑点がいくつも散らばっています。

ビリダと呼ばれる不思議な地形で、そこだけ灌木が生えていません。ビリダの中を歩いていくと、地面が剥き出しになっています。地表は白くキラキラしています。舐めると塩っぱいです。白く光って見えるのは塩の結晶です。ここはかつて大地の窪みで、底に溜まった海水が蒸発して塩が噴き出したのです。

ビリダで生育するのは乾燥に強く塩分に耐えることのできる植物だけです。サンファイアの一種は肉厚の赤い茎に水分を蓄えています。

 

≪塩分濃度が高い海水を利用した広大な塩田≫

シャーク湾では昔から塩作りが盛んでした。奥まった入り江では、海水に含まれる塩分が普通より濃いのです。

塩田に海水を引き入れ、天日で蒸発させます。

ゆっくり出来上がった塩の結晶は手の平サイズです。

年間130万トン生産されています。強烈な日差しと雨が少ない土地ならではの大規模な塩作りです。

 

≪塩分濃度の高い海に謎の生命体≫

海の底に岩のような謎の生命体。もしこの生きている岩がなければ地球の今はなかったかもしれません。

不思議に満ちた海には、酸素を作る「生きている岩」があります。彼らが太古の地球に酸素を生み出したのです。

シャーク湾の一番奥、その海底にたくさんの奇妙な岩が並んでいます。ストロマトライトです。

他の生物がほとんど住めない塩分の濃い海で生き延びてきました。

その正体は、数十億年もの昔、地球上に酸素を作り出したシアノバクテリア(藍色細菌)という微生物の集まりです。シアノバクテリアの大きさはわずか1000分の数ミリで、最古の生物の一つです。

藍藻(ラン藻(らんそう))とも呼ばれるシアノバクテリアは光合成を行います。昼間は二酸化炭素を吸って酸素を吐き出します。夜間は表面の粘液に砂粒などが付着します。これを繰り返すことで岩のような形になりました。

ストロマトライトは年間0.4mmずつ成長しています。

18億年前のストロマトライトの化石が発見されています。ストロマトライトは太古の海に広く存在していました。

培養中のストロマトライトの表面に無数の気泡が付着しています。これが酸素です。彼らは地球の大気に酸素を送り込み、環境を激変させました。

ストロマトライトがなければ、私たち人類をはじめ酸素を必要とする生物は、生まれなかったかもしれません。

世界でここだけに残された太古の海、西オーストラリアのシャーク湾は1991年に世界自然遺産に登録されました。

 

≪泳ぐウミガメを素手で捕獲する≫

アボリジニ ガイドのダレン・ケープウェルさんと、先住民アボリジニが案内するエコツアーへ出発です。

カヤックで行くケープウェルさんが伝統の凄技を見せてくれます。

シャーク湾周辺で狩りをしながら生きてきたアボリジニの住居跡。数万年もの間こうした自然の洞窟で雨風をしのいできました。

河口の辺りでは満潮になると海水が海から川へ逆流します。

川に迷い込んだウミガメがすごい速さで泳いでいます。

ケープウェルさんは狙いを定め、素早く水中へ飛び込んだかと思うと、一瞬の合間にそのウミガメを素手で捕獲してしまいました。

ケープウェルさん「ウミガメはアボリジニの伝統食で、我々は食用に獲ることを許されています。でも漁の時にはウミガメに敬意を払い、決して獲り過ぎたりはしないんです。」

ケープウェルさんが手を離すとウミガメは元気よく泳ぎ去って行きました。

アボリジニの地元、昔からの生活にも触れるひとときです。

 

≪謎の動物ビルビーとは?≫

シャーク湾の半島に不思議な動物の黒いシルエットが描かれた黄色い道路標識が立っています。「ビルビーに注意」

赤い砂地を行きます。

レンジャーのキム・ブランチさん「そこに大きな巣穴があります」

地面に空いたビルビーの巣です。

ビルビーは夜行性でオーストラリアの人たちでもまず見たことはありません。

暗視カメラを設置しました。暗視カメラの画像には暗闇で跳ねる大きな耳の動物が写っていました。ウサギとネズミが混ざったような姿をしています。

≪半島を封鎖 幻の動物を救うプロジェクト≫

シャーク湾に突き出した半島

ハリモグラは哺乳類ですが卵を産む原始的な生き物です。地面を鼻で掘り、長い舌でアリを舐め獲ります。

孤立したオーストラリアでは太古の動物が生き延びてきたのです

一本道の先にフェンスが張られています。延々と海まで続く金網には電流が流れています。外来種の侵入を防ぐためです。半島の付け根にフェンスを設置して半島全体を保護区にしました。(Francois Peron National Park)

 


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こうしてできた保護区に外来種によって絶滅に瀕した動物を集めて甦らせる計画がプロジェクトエデン(Project Eden)と呼ばれるものです。

レンジャーのキム・ブランチさん「ここにビルビーの足跡があります。これは後ろ足、とても独特な形ですね。」

ビルビーも今絶滅の恐れがある動物です。

キム・ブランチさん「これはネコの足跡です」保護区にはまだ、人間が持ち込んだ外来種がいます。ペットとして持ち込まれたネコも外来種のうちの一つです。

ペロン飼育繁殖センターでは、ネコなどに襲われないようにフェンスとネットで囲って保護し、安全に子育てができる環境を作っています。中は動物毎に金網で区切られています。個体数が増えると半島に放ちます。

今繁殖中なのがバンデッド・ヘアワラビーです。ワラビーもお腹の袋で子どもを育てる有袋類です。

オーストラリアは有袋類だけで一つの世界を創り上げました。

バンデッド・ヘアワラビーの好物は蜜の詰まった花です。

小型のルーファス・ヘアワラビーはネズミのようにも見えます。

他の大陸では見られない幻の動物ばかりなのです。

ビルビーは昼間、地面に掘った巣穴の中で眠っています。暗くなると外に出てきます。尻尾が細くて長いです。途中までが黒い毛で、その先から白い毛が生えています。大きな耳と鋭い嗅覚で虫を探し当てて食べます。

1991年のプロジェクトエデン開始から20年が経ち、ビルビーの数は確実に増えました。

ペロン飼育繁殖センターのキム・ブランチさん「ビルビーを繁殖させることはとても意味のあることでした。フェンスに守られ、この半島が絶好の生息地となったからです。でも本来はフェンスがなくても固有種の数を増やすことが重要なことなのだと思います。」

エデンの園は、まだ夢の途上です。

 

シャーク湾にあるのは、遙か遠い地球の姿です。

その海は今も呼吸を続けています。

 

アクセス:
オーストラリア連邦(Australia)

西オーストラリアのシャーク湾
Shark Bay, Western Australia

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コメント

    • k-co
    • 投稿日 (Posted on):

    カレッジ講座 27 後期 No.44

    見よう知ろう東京の昆虫情報 良い虫・悪い虫・おじゃま虫の世界

    世界の大都市の中で、東京のみ生息昆虫の種類が増加しています。
    原因は自然が回復したのか?
    環境学習の成果なのか・・?
    事実は、喜ばしい原因で増加したのではなく、“おじゃま虫”の分布拡大と判明しました。
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    生物多様性をふまえ諸問題を渉猟(しょうりょう)します。

    開講日: 2015年10月9日(金) 13:00~15:00
    申込締切: 講座日の1週間前まで(定員になり次第締切)

      • k-co
      • 投稿日 (Posted on):

      先日、緑と水の市民カレッジでは「見よう知ろう東京の昆虫情報 良い虫・悪い虫・おじゃま虫の世界」という講座が行われました。昆虫の観察を続けて84年!という、昆虫研究界のレジェンド・須田孫七先生をお招きして、永年東京の昆虫を見続けてきた先生ならでは、かつ、ユーモアを交えたお話に、老若男女の参加者一同、楽しく興味深げに耳を傾けておられました。
      私たちが普段行っている講座は、「緑の社会的役割を考える」というテーマで組み立てていることからも、植物を扱ったものが多いのですが、このような講座も開催しております。東京の緑を考える時に、とっても大きな役割を果たしている虫たち。普段身近なところで暮らしている虫たちの世界にも少し目を向けると、逞しくこの大東京で命を繋いできた生きものたちの気持ちが理解できるのかもしれません。
      都会のオアシス・日比谷公園にはたくさんの虫がいます。植物はもちろん、昆虫を始めとした動物、自然環境についての図書・資料も扱っていますので、オアシスを探索しながら、市民カレッジに立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
      植物好き、動物好きな職員一同で、お待ちしています!

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