マナス野生生物保護区(インド)

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Rhinoceros

2013年5月12日放送「THE 世界遺産」は、「ヒマラヤが育んだゾウの楽園 マナス野生生物保護区(インド)」でした。

 

 

ヒマラヤの麓に広がる深い森には、幻の動物が生息しています。

樹の上を軽快に飛び跳ねるように現れたのは黄金の毛を持つサル。

わずか50年前に発見されたばかりで、密林でひっそりと命を繋いでいました。

地球最後の一角獣、インドサイ。

 


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インド北東部、ヒマラヤの麓に広がる緑のオアシス。

ここはインドで最大級のゾウの生息地です。

その姿を求めて3日。

警戒心の強い野生のアジアゾウをこれほど間近で見られることは滅多にありません。

それも30頭もの大家族です。

≪家族で子どもを守る≫

母親がロケ隊に気付いて動きを止めました。

子どものゾウを一ヵ所に集め、大人のゾウが素早く周りを取り囲み、か弱い子ゾウを隠して守っています。

お互いの鼻と鼻をこすり合わせるのは独特のコミュニケーション。

低い声も発しています。

危険を知らせる合図かもしれません。

ひときわ大きな一頭が道の先に立ち塞がり、こちらを睨んでいます。

群れを率いるリーダーです。

大きな甲高い鳴き声を発して「これ以上近づくな」と威嚇。

その隙に、後ろでは家族が一斉に森の奥へと移動していきます。

アジアゾウはとても賢い動物なのです。

 

広大な草原と深い森は絶滅が危ぶまれる貴重な種の隠れ家です。

手付かずのまま残されたアジア屈指の野生の王国は、川が運ぶ大量の土砂が不思議な地形を生みました。

マナス野生生物保護区はヒマラヤ山麓のなだらかな斜面にあり、流れ込む川が全ての源になっています。

川面にはカワウソの群れが跳び跳ねるように泳ぐ姿がありました。

その姿はイルカのようで、まるで水泳選手が平泳ぎの息継ぎをしているのを見ているような素早い泳ぎです。

彼らはビードロ・カワウソ、漁の真っ最中で、集団で協力して魚を追い込んでいるのです。

小鳥やネズミを思わせる鋭い鳴き声を発しています。

跳ねるように泳ぐのは勢いを付けるためだそうです。

 

≪マナスで見つけた命の輝き ゾウの家族≫

川の畔に、アジアゾウの一団が水浴びに訪れました。

ゾウは水浴びが大好きで、火照った体を冷やし、皮膚の乾燥を防ぎ、体に付いた寄生虫も取り除きます。

長い時は2時間ほども川辺にいるそうです。

河原から下りて水の中に浸かり、鼻で水を吸い込んで背中に掛けている様子は、まるでシャワーです。

マナスはアジア有数のゾウの楽園であり、現在600頭を超える野生のゾウが暮らしています。

 

なぜこの土地は多くの動物を養うことができるのか?

マナスはヒマラヤ山脈から流れ出す無数の川の流域に位置していて、川が網の目のように大地を覆っています。

乾期は地面が見える土地も、雨期になると川が氾濫を起こして低地は水浸しになります。

山の栄養をたっぷりと含んだ土砂が運ばれてきて一帯に広がることで、肥沃な土壌が生まれました。

川の氾濫がもたらした豊かな大地は大草原を生み、大型の草食獣たちを呼び寄せました。

 

野生種は他ではほとんど姿を消したアジアスイギュウにとってここは最後の住処といえます。

2m近い立派な角は、牛の仲間で最大を誇ります。

ムクドリに体に付いた虫を食べて貰っています。

 

インドクジャクのオスがメスの群れを発見しました。

早速150本もある自慢の飾り羽根を扇のように広げると、尾尻を振りながらぐるりと一回転、求愛のダンスで告白しました。

しかしメスはオスにはまったく無関心な様子で一心に餌をついばんでいます。

 

アジアゾウは起きている間、ひたすら食べています。

大きなゾウは4トンにもなる巨体を維持するためには、一日に130kgもの草が必要です。

アジアゾウの外観上の特徴は、頭がこぶのように左右に膨らんでいることです。

左右の耳をまるでうちわを仰ぐようにパタパタと動かしているのは、体の熱を逃がしているのだそうです。

ここは生きとし生けるものを支える大草原です。

 

知能が高いゾウは昔から人間の良きパートナーでした。

マナスには赤ちゃんの時から飼育されている観光用のゾウがいます。

象使いは様々な合図で巧みにゾウを操ります。

右前足を叩くと、ゾウはその足を前に曲げて伸ばし、象使いが背中によじ登る時のステップ代わりになります。

象使いが前足を踏み台に軽々と背中の上に。

頭の上を撫でると鼻を持ち上げて「こんにちは」の合図をします。

両足で耳の後ろを押すと前に進みます。

人気のエレファントサファリ(Elephant Safari)では、ゾウの背中に乗って保護区をめぐることができます。

観光客を運ぶのは10歳の頃から。

子ゾウたちはじゃれ合いながら母親に付き添います。

川や湿地もゾウの背中なら大丈夫です。

エレファントサファリは90分ほど。

魅力は野生動物を間近で見られること。

体長2mの巨大な牛、ガウルに大接近。

 

アジアゾウは血の繋がったメスと子どもたちで群れを作ります。

一番体の大きなリーダー推定40歳の長老、最年長のおばあちゃんです。

リーダーが鼻を前に持ち上げました。

これは移動の合図です。

周りの群れも次々と同じように鼻を持ち上げて「了解」と合図をします。

40頭もの大家族が一斉に動き始めました。

ゾウが草原で食事をするのは涼しい朝と夕方だけで、昼間は熱帯の強い日差しを避けて森の中で過ごすのだそうです。

 

≪黄金のサルが棲む森≫

草原を取り囲む深い森の中。

全長6mのインドニシキヘビが驚くと襲いかかって噛み付きます。

大きくカラフルな嘴、頭の上に兜のようなユニークな突起が付いているオオサイチョウ。

白い大きな嘴のシワコブサイチョウ。

マナスの森で珍しいサルを発見しました。

世界でここだけの珍獣です。

木の枝の上を軽々と飛び移りながら移動してきたゴールデン・ラングールは、顔だけが黒く後は全身が金色の毛で覆われています。

スリムな体に長い尻尾。

果実や葉を食べながら樹の上だけで生活しています。

50年前に発見されたばかりで、地球上でまだこの地域でしか確認されていないそうです。

この森を隠れ家にして命を繋いできました。

 

豊かな実りをもたらす森。

エレファント・アップルはその名の通り、ゾウの大好物です。

熟した実の香りは、まさにリンゴのようで、鋭い嗅覚でゾウがご馳走にありつこうとやって来ました。

実を前足で押し潰し、器用に鼻で掴んで口に運びます。

 

板状の根を張るインドワタノキは、高さ20m。

森の始まりに一役買ったのがこの巨木でした。

乾期の終わりに、ふわふわの綿が詰まった実を付けます。

綿が風に乗って雪のように舞いながら種を遠くまで運びます。

綿の中に眠っていた種から新芽が育ちます。

こうして草原に1本のワタノキが芽吹くと、やがてその周囲にも様々な樹木が根付いていきます。

 

≪森の恵みで生きる先住民≫

マナスの周りの平原では、古くから先住民ボド族が暮らしてきました

ボド族の集落は今も地のものだけで自給自足の生活をしています。

ワタノキの綿は天日干しにして寝具に詰めます。

水を弾く性質があるそうです。

食卓に欠かせないのがエレファント・アップル。

片手で実を握りながら鉈で器用に外皮を割っていきます。

固い皮の内側が果肉で、酸味が強く、リンゴのようにシャキシャキしています。

スパイスをたっぷりと効かせて野菜と川魚を炒めます。

最後にエレファント・アップルを加えれば出来上がり。

森の幸が詰まったエレファント・アップル・カレーです。

右手(素手)で食べるのがインドの作法です。

酸っぱいカレーで暑さにバテた体に喝!

 

ヒマラヤが育んだ楽園マナス。

そこに消えかけた命がありました。

≪インドサイ復活大作戦≫

幻のサイの復活をかけた作戦がありました。

WWFインディアのデバ・クマール・ダッタさん「これはインドサイの追跡装置なんです」

一角獣のインドサイ、その角が漢方薬の原料として珍重されたため、乱獲され生息数が激減しました。

マナスには現在わずか25頭が生息するのみです。

生態調査で取り付けた発信器を頼りに追跡します。

幻のサイは大草原のどこかにいるはずです。

マナスの草原に住む貴重なインドサイを追って、草むらをかき分けて進んだ先に、まだ新しいインドサイの大きな足跡を発見しました。

丈の高い草むらの向こうに、灰色の大きな後ろ姿。

首に巻かれているのが調査用の発信器です。

もう1頭います。

鎧のような分厚い皮膚(襞、ひだ)に覆われ、襞の間に柔らかい皮膚があり、動きやすくなっています。

見事な一本の角、この角欲しさに乱獲されたのです。

かつてマナスに100頭以上いたインドサイは、一度は全滅してしまいました。

デバ・クマール・ダッタさん「私たちはインドサイの生態系を取り戻す活動を行っています。実は現在のマナスにいるインドサイはすべて他の土地から運ばれてきたものなのです。」

マナスから東へ110kmのカジランガ国立公園(Kaziranga National Park(世界遺産))は、アジアで最大のインドサイの生息地です。

カジランガ国立公園からマナスへインドサイを移すという「インドサイの移住計画」が一大プロジェクトとして動き出したのは、2005年のことでした。

麻酔銃を使って眠らせた2トンもの巨体を重機を使ってトラックに運びます。

 


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移送は陸路、夜道を走ること一晩。

カジランガ国立公園からやってきたインドサイが、新しい故郷、マナスに放たれました。

繁殖させて数を増やす計画です。

サイの妊娠期間は16ヵ月にもおよび、1回の出産で産むのは1頭だけです。

一度滅んだ命を取り戻すには、長い時間がかかります。

2012年9月、嬉しい知らせが届きました。

カジランガ国立公園から運ばれてきたインドサイのメスの1頭がマナスで初めて出産に成功しました。

復活への第一歩です。

 

 

ヒマラヤから流れ込む川が生んだ、マナスの草原と森は、世界に二つと無い稀少動物たちの終の棲家となりました。

この楽園は教えてくれます、命の輝きと命の脆さ、そして、でもだからこそ、自然は美しい、ということを。

 

 

アクセス:インド共和国

マナス野生生物保護区(マナス野生動物保護区)
Manas Wildlife Sanctuary

 

 

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コメント

    • k-co
    • 投稿日 (Posted on):

    自動撮影カメラがとらえた!
    “研究者泣かせ” の ウンピョウ の姿

    ブータンにある ロイヤル・マナス国立公園から、ウンピョウ(雲豹、Neofelis nebulosa)の映像が届きました!
    その名の由来にもなった、美しい雲形をした模様の斑紋が見られる毛皮が特徴です。
    もっぱら樹上生活をし、狩りも樹上か、あるいは上から狙って飛びかかるそうです。
    その獲物は小動物だけでなく、時にはシカやイノシシなど、自身より身体の大きな動物も 鋭い犬歯を使って仕留めるといいます。
    このウンピョウ、夜行性で単独行動の樹上生活者という、研究者にとっては”三重苦”の動物。
    通常、野生生物の調査には自動撮影カメラが用いられますが、彼らの姿はそう簡単にはとらえることができません。
    ですので、今回届いた映像はとっても貴重なもの!

    川辺で水をごくごく飲む姿に、スタッフの喜びもひとしおです。ぜひご覧ください。(https://youtu.be/nNuPXzwx1Hk)

    • k-co
    • 投稿日 (Posted on):

    2015年10月5日、ヒマラヤ東部からうれしいニュースが飛び込んできました!
    WWFはヒマラヤ東部で200種を超える新種の生き物を確認したと発表しました。
    これはネパール、ブータン、およびインド北東部を含めたヒマラヤ山脈の東部を中心とした地域で、2009年から 5年間に発見された新種の生き物の合計数です。

    今回発見された生き物の中には、最大 4日、水から出ても生きられる淡水魚や、体色は地味ながら空色の目を持つカエルなどがおり、これらはヒマラヤ東部のみに生息する固有種であって、個体数が少なく、早くも絶滅の危機が心配されているそうです。
    その理由として、WWFが同時に発表した報告書の中で、気候変動をはじめとしたさまざまな環境問題を挙げています。

    世界に2つとない、ヒマラヤの山並みと、豊かな自然。
    WWFではこれからも重要な環境が残る地域の保全と、人と自然の共存を目指した地域の開発を支援してゆきますので、引き続きご注目ください!

    「アジアのワンダーランド! ヒマラヤ東部で200種の新種を確認」http://www.wwf.or.jp/activities/2015/10/1285505.html

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