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サンガ川のンドキの森とバイ
2013年3月31日放送「THE 世界遺産」は、「世界で唯一の湿地バイ ~ サンガ川流域の森林地帯(カメルーン/コンゴ共和国/中央アフリカ)」でした。
アフリカには、コンゴ民主共和国(旧国名:ザイール、首都:キンシャサ)、コンゴ共和国(首都:ブラザヴィル)、実は2つの国があります。この2つの国はお互いに隣り合っていて、地図で見ると西側(左)がコンゴ共和国で、東側(右)がコンゴ民主共和国です。
今回は、コンゴ共和国です。
アフリカ中央部、「ンドキの森」とも呼ばれるヌアバレ・ンドキ国立公園は、たどり着くのも大変な手つかずの森です。
ガイド:西原智昭さん(国際野生生物保全NGO)
赤道直下、赤い土の悪路をクルマで移動すること1000km。
サンガ川の流域に広がる熱帯雨林。
密林の中を分け入ると肉食のサファリアリの大群、その数100万匹。
裾を靴下で覆い侵入を防ぎます。
頭上の樹の上にはクロシロコロブス。
小川が網の目のように流れています。
紅茶のように赤い色をした川の水は、植物から溶け出したタンニンによるものです。
時に船で深い川を渡り、腰まで水に浸かりながら川の中を進み、そしてまた歩きながら森を抜けていきます。
先住民ピグミーの案内なしでは探検できない、底なし沼に囲まれた熱帯林の秘境です。
奥へ奥へと進むと川の水の色が真っ黒になります。この黒い川を先住民は「ンドキ」(悪霊)と呼んでかつては立ち入らなかったそうです。
森の中にマルミミゾウが踏み固めたゾウ道(ぞうみち)を発見。
バテは30mもの高い幹に直接実がなります。
熟すと地面に落ち、その音を聞きつけてゾウがやってくるそうです。
バテの実は鉈(なた)でしか割れないほど固い果皮ですが、ゾウは丸ごと実を口に入れて噛み砕くそうです。
WCS観察基地に到着。
密林の中にぽっかりと空いた湿原が広がります。
この広場のように開けた湿地は、先住民の言葉で「バイ」と呼ばれます。
この湿地帯バイは、サンガ川流域の森に100ヵ所以上も点在していて、飲み水や水草を求めて、アカスイギュウ、シタトゥンガなど、森に棲むほとんどの動物が集まってくるのだそうです。
母親を中心としたグループを形成して暮らすマルミミゾウは、1頭ずつ識別して調査・観察されています。
ボマサ村
大きな獲物が獲れた時、人が亡くなった時も、特別な日には森の精霊「ジェンギ」が現れ、一緒に踊りながら喜びも悲しみも共に分かち合います。
ジェンギは葉でできた蓑をかぶった姿をしています。
クルクルと回転して踊りながら、突然、背が伸びたりします。
森の豊かさの源である湿地帯バイは、ゾウが作りだしたものです。
バイに朝一番に姿を現したマルミミゾウ、彼らはバイからバイへ渡り歩いて生活しています。
彼らは森に棲むゾウで、生態がまだよくわかっていないため幻のゾウともいわれます。
マルミミゾウはバイに入り、泥を食べています。
バイの湿地の地面にはゾウが踏み荒らした後が残されています。
サンガ川流域一帯には、5000頭のゾウが生息しているそうです。
森にはゾウが牙で削った跡が残る、バイのきっかけとなる穴がありました。
ゾウは地面を掘り、土を食べて塩分などのミネラルを補給しているのだそうです。
ゾウたちの群れが集まり、地面を掘って土を食べるのに従って、周囲の木が倒され、丸く開けた窪地が広場のように徐々に広がっていき、やがて近くを流れる小川と結びついて「バイ」ができ上がっていきます。
バイにはニシローランドゴリラも姿を現し、湿地に座り込んでハイドロカリスと呼ばれる水草を食べていました。
ハイドロカリスの根っこにミネラルが含まれているそうです。
木の枝を杖代わりに深みを避けながら水場を渡る、そんな器用に道具を使うゴリラの姿も観察され、2005年に撮影されています。
街の人口は1万人。
2000年以降、ンドキの森では木を切り出す仕事に関わる人々が住んでいて、市場は活気に溢れています。
いかにも辛そうな名前の唐辛子ピリピリも店先に並びます。
製材所では、国立公園の外側で計画的に事業を行っています。
ヌアバレ・ンドギ国立公園長官ドス・サントス・ドミンゴスさんは「動物達を守るため、木の伐採区が広がらないよう世界遺産にする必要があった。森を失えば、我々は大切な宝物を失うことになる」
藪を横切る黒い巨体。
体重180kgを超えるニシローランドゴリラは家族で行動します。
番組内ではニシローランドゴリラの撮影に初めて成功しました。
ニシローランドゴリラは頭部の赤毛、背中の白銀の毛並み「シルバーバック」が特徴的です。
「シルバーバック」は家族のリーダーのオスでひときわ大きな体で、背中が銀色に輝いています。
彼らはベジタリアンで、12万頭ほど生息しているそうです。
地面にゴリラのベッドが残されていました。
彼らに人間の病気を移さないように取材班は全員マスクを着用しました。
両手で胸を叩いて音を立てる「ドラミング」で、自分の存在をアピールしています。
ゴリラは木登りが上手です。
樹上にはモトゥンガなど、沢山の果実が実ります。
木の実はゴリラやゾウに食べ物(果実)を提供する代わりに、彼らのフンに混じって種を遠くまで運び、やがて新しい大地の上で芽吹きます。
サンガ川流域一帯に広がるンドキの森は、森と生き物が皆繋がって生きている、命豊かな世界です。
ゾウが作った湿地バイは、アフリカに残された聖なる場所です。
アクセス:
コンゴ共和国の「ヌアバレ・ンドキ国立公園」
カメルーン共和国の「ロベケ国立公園」
中央アフリカ共和国の「ザンガ・ンドキ国立公園」
サンガ川の三か国流域(コンゴ、カメルーン、中央アフリカの三か国にまたがる国際的な自然景観保護地域)
Sangha Trinational
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4/25は、「世界マラリア・デー (World Malaria Day)」
福岡 と タイで『マラリア』の恐怖を通行人に体感させるプロモーションを実施「FEEL MALARIA promotion」
2015年4月25日、特定非営利活動法人 マラリア・ノーモア・ジャパン(所在地:東京都千代田区 理事長:神余 隆博)は、発展途上国において1分に1人の命を奪っているマラリアの被害を知ってもらうことを目的に、「世界マラリア・デー」である4月25日(土)、マラリアの恐怖を体験させるプロモーション「FEEL MALARIA promotion」を福岡とタイにて実施しました。
日本においては、マラリアは過去のこと、若い世代にとっては未知のこととなりつつあります。しかし、エイズ、結核とならび世界三大感染症の一つのマラリアはなお、アフリカやアジアなどでその猛威を振るい、世界人口の約半分がマラリア感染の脅威にさらされ、1分間に1人と言われるほど多くの幼い子どもたちの命を奪っている現実があります。
福岡とタイで開催されたプロモーションでは、街頭で通行人へ気付かれぬようマラリア蚊に模したシールを貼り、その後マラリアシールを貼られた方を追いかけ事情を説明。マラリアシールには、『このシールぐらいマラリアの感染は気づきにくい。1分に1人のイノチを奪うマラリアの根絶に、あなたの力を。』と書いてあり、貼られたみなさんは、気づかないうちに貼られたことだけでなく、そこにマラリアの恐怖を感じ、驚きを隠せずにいました。
散歩で警固公園を訪れていたご家族連れは「全然気づきませんでした。子どもが刺されると思うと恐ろしいですね。」と話してくれました。また、買い物で天神を訪れたというご高齢のご夫婦は「昔は日本にもあったもの。今の若い人は知らないかもしれないので、もっと伝えていったほうがいいね。」と語ってくださいました。
また、福岡の警固公園では、ギニア共和国出身で、タレントの オスマン・サンコンさん(66)も協力くださいました。サンコンさんは3年前、姪御さんをマラリアで亡くされており、マラリアの恐怖を伝える活動に積極的に参加していらっしゃいます。
サンコンさんは「“自分は関係ない” という考え方が一番怖い。いろんな国に簡単に行ける時代だからこそ、他人事だと思わずに、自分や、大切な人がこの病気にかかったら、という気持ちで、マラリアのことを真剣に考えてみてほしい」と話していました。
尚、今回の「FEEL MALARIA promotion」の模様は、マラリア・ノーモア・ジャパンHP および YouTubeにて、4月30日公開予定です。
「マラリア」について
マラリアは、メスのハマダラカがマラリア原虫を媒介することで、ヒトに感染する感染症です。三大感染症の一つと言われ、世界97ヶ国の国で流行、全世界の半分の人口の人が、マラリアの脅威にさらされています。蚊のメスは産卵のため吸血しますが、マラリア原虫(Plasmodium 属の原虫)に感染したメスのハマダラカがヒトを刺すと、その際、唾液腺に集積していたマラリア原虫のスポロゾイト(赤ちゃん)が、唾液注入に伴い体内に侵入します。このようにして人の血液中に混入した後、45分程度でマラリア原虫は血管を通って肝細胞に入りこみ、メロゾイトに成長します。このメロゾイトが、赤血球に侵入して増殖。感染した赤血球が破裂すると、マラリアの症状である悪寒や発熱、進行性貧血が生じます。この間約1週間から10日間。初期症状である発熱、頭痛、悪寒、嘔吐は軽く、マラリアと気づくのは困難で、治療をしないまま放っておくと、脳症、急性腎不全、出血傾向、肝障害などの合併症が起き、死に至るケースもあります。熱帯熱マラリアは、24時間以内に治療しなければ重症化し、死亡することもあります。
世界保健機関(WHO)によれば、2013年のマラリア患者数は、約1億9800万人で、約58万人が命を落としました。被害者の約8割は、アフリカに暮らす、マラリアへの免疫がほとんどない5歳児未満の子どもであり、1分に1人の子どもがマラリアで亡くなっています。子どもの三大死亡原因のひとつが、マラリアです。重度のマラリアから回復した子どもたちの中には、学習障害や脳損傷が残ることがあり、妊婦やおなかの中の子どもたちも感染の影響を受けるリスクは高くなります。流行国では流産の60%近くの原因がマラリアとされており、大きな問題となっています。
現在、有効なワクチンは開発されていないため、蚊帳を使用することで感染を予防したり、感染後も早期の適切な診断と治療が大切です。近年では、マラリア治療の特効薬「アルテミシニン」に耐性を持つ原虫が東南アジアで急速に拡大していることも指摘されており、世界の公衆衛生対策の最優先事項として取り組む必要性が指摘されています。
日本でも昔は大量に感染者を出した
今日、日本では、マラリアに感染することは、海外渡航者が渡航先で感染したケースのみです。
しかしかつて日本では北海道から沖縄まで、全土でマラリアがありました。琵琶湖を中心として、福井、石川、愛知、富山でマラリア患者数が多く、福井県では大正時代は毎年9000~22,000名以上のマラリア患者が発生、1930年代でも5000から9000名の患者が報告されています。戦後、最後までマラリアが存在したのも八重山諸島です。琉球王朝の時代からマラリア感染が深刻だった同地は、第2次世界大戦中には戦争マラリアと呼ばれる大量感染の記録があります。戦後、マラリアは、マラリアを持ち帰った元兵士を中心に全国で流行。
特定非営利活動法人 Malaria No More Japan(MNMJ)について
世界的なマラリア撲滅の流れを日本およびアジア地域においても加速させるべく、2012年11月、日本に設立された。マラリアのない世界を目指し、支援を必要とする地域へのサポートや、国内外での啓発活動を行っている。本部は、2006年米国に設立された非営利活動法人 Malaria No More です。マラリア撲滅が世界的に重要な課題であることを啓発するための活動や、各国政府、他の非営利団体、国連、民間企業との連携を通じた政策提言活動を展開、英国にも支部を置く。現在、インドネシアでの現地支援事業を開始するなど、アジアを中心に支援の輪を広げています。
NPO法人マラリア・ノーモア・ジャパン
Malaria No More Japanサイト: http://www.mnmj.asia/
Malaria No More Japan 連続講座
“知の快感 蚊が運ぶ病気を識る”を開催!
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター、長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 共催
2014年夏、デング熱が日本各地で発生。閉鎖された公園もあり、そのものものしい姿は私たちに「蚊がもたらす病気」の恐ろしさを実感させました。しかし、蚊から感染する病気について私たちはどれほど知っているでしょう?
日本唯一のマラリアに特化した認定NPO法人である「Malaria No More Japan」は、蚊が運ぶ病気を考える連続講座を開催。「蚊」「蚊が運ぶ病気」の専門家たちによる、みなさんの知らない新たな「蚊」の世界に行ってみませんか? 10月17日開催の第2回講座のテーマは、ずばり「マラリア」です。
特定非営利活動法人マラリア・ノーモア・ジャパン(所在地:東京都千代田区、理事長:神余隆博)は、蚊が運ぶ病気を考える講座を開催致します。2014年のデング熱の騒動以来、社会的にも広く注目されている「蚊」「蚊が運ぶ病気」について、専門家をお招きし、そもそも蚊とはどういう生き物なのか、蚊が媒介する病気はなぜ発生するのか、蚊にまつわる基礎知識から、企業の取り組みまで、幅広く紹介する内容となっております。
第1回講座(9月26日)は、「蚊の世界へようこそ 今年もあなたをつけ狙う恐怖の蚊」を長崎大学で開催。蚊界の話しやデング熱が日本に上陸するまでの感染経路などについてお話しいただきました。第2回講座(10月17日)は、新宿区の国際医療研究センターで開催されます。イベント概要は以下のとおりです。
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第2回 「マラリア防圧 世界最小・最強の殺人兵器」
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★マラリアは怖い。そんなイメージは私たちみんなが持っているでしょう。
人類史を紐解くと、マラリアは古くから世界で流行し、多くの人びとの命を奪ってきました。そのマラリアの防圧の試みは、19世紀より様々な形で取り組まれているものの、今なおその拡散が続いている状況です。また、近年では薬剤への耐性を獲得したマラリア原虫が出現するなど、新たな問題も生じています。第2回目の講座は「世界三大感染症」の一つとされるマラリアについて、その感染・発症の仕組みと、現在の対策研究の最前線を体系的に学びます。
日時: 2015年10月17日(土)13:00-14:30
講師: 狩野繁之氏 国立研究開発法人国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部 部長
会場: 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 研究所 地下1階 大会議室AB
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第3回 「エコヘルス 環境破壊が感染症を引き起こす?」
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★第3回目の講座は環境と感染症の関係を考えます。
環境要因は、感染症にも大きな影響を与える可能性があります。気候変動による、これまで発生しなかった国や地域での感染症の発生、森林破壊や人口増に伴う土地への負担の増加は、環境を悪化させ、結果として感染症の蔓延に影響する可能性もあります。さらに、近年のグローバル化の中で、ヒトの移動の加速化も環境変動に大きく影響することも懸念されます。生態系や環境の変化は感染症とどうかかわるのか、地球環境と感染症の関係を考えてみませんか?
日時: 2015年11月14日(土)16:00-18:00
講師: 門司和彦氏 長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授 副研究科長
会場: 長崎大学 坂本キャンパス・グローバルヘルス総合研究棟1階 大講義室
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第4回 「ワクチンはどこだ 感染症から身を守る」
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★第4回目は2回目に続きマラリアに焦点を当てて、研究及び実際の援助の現場の最前線を紹介します。
特に日本企業の取り組みとして途上国で勤務する企業がどのような対策をしているのか、現場の様子と日本の企業が開発した防虫剤処理蚊帳「オリセットRネット」の配布の現場、その効果を知ることで、私たちに何ができるのかを考えます。第4回目となる今回は、シンポジウム形式で実施します。
日時: 2015年12月12日(土)13:00‐15:00
SPEAKER
高尾剛正氏 住友化学株式会社 副会長 / Malaria No More Japan 理事
高野哲朗氏 エクソンモービル・LNG・マーケティングデベロプメント・インク 日本支店 首席代表
ファシリテーター
北潔氏 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻生物医化学教室 教授、長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授 研究科長
会場:国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 研究所 地下1階 大会議室AB
詳しくはこちら(http://mnmj.asia/education/pdf/MNMJ_educaton_01.pdf)をご覧ください。
お申込みは、以下内容を Malaria No More Japan 事務局(info@mnmj.asia)までお送りください。
———————
メールタイトル: 「連続講座申込み」
出席される講座(第2回、第3回、第4回)
社名及びご所属部署
肩書き
お名前
メールアドレス
———————
ご不明な点等ございましたら、Malaria No More Japan 事務局(info@mnmj.asia)までご連絡ください。
2015/05/09、世界保健機関(WHO)は、エボラ出血熱が流行するギニア、シエラレオネ、リベリアの西アフリカ3ヵ国のうち、リベリアで感染が終息したと宣言した。3/28に最後の患者が埋葬されてから42日間、新たな感染者が確認されていないため。(WHO は、ウイルスの潜伏期間とされる21日間の2倍の期間、新たな感染者が現れないことを流行終息を判断する基準としている。) 一時、2014年8〜9月、リベリアでは毎週新たに300〜400人の勢いで感染者が増加するなど、感染が最も深刻な国だった。
エボラ出血熱は、WHOが2014年3月にギニアで発生を確認して以降、西アフリカの感染者は 2万6648人、うち死者は1万1007人。この内、リベリアの感染者は1万565人、死者数は4716人で、3ヵ国で最大。
地域全体での終息まで引き続き監視を
リベリアでエボラ出血熱の新規症例が42日間にわたり記録されなかったことを受け、世界保健機関(WHO)は5月9日、同国でのエボラ流行終息を宣言した。国境なき医師団(MSF)もこの宣言を前向きに受け止める一方で、隣国のギニアとシエラレオネではいまなお新規症例の報告があり、西アフリカ地域の流行が終息したわけではないため、国境をまたいだ疫学的監視の維持を呼び掛けている。
リベリアでMSF活動責任者を務める マリアテレーザ・カッチャプオティ は「流行3ヵ国全てが新規症例を出さず42日間を過ごすまでは、油断できません。リベリアでは政府と市民の努力により流行終息に至りましたが、一瞬で元に戻りかねないからです」と話す。MSFは、リベリアでエボラ流行を再発させないためにも、国境をまたいだ疫学的監視を強化する必要性を指摘している。
リベリアでは約200人の医療従事者がエボラに感染し、亡くなった。もとより脆弱だった保健医療システムは、今回の集団感染で壊滅状態に陥っている。カッチャプオティは「今こそ医療ニーズへの取り組みを優先し、リベリアの人びとが再び安心して病院に通えるようにすべきでしょう。国際社会もリベリア、ギニア、シエラレオネが、十分な人的・物的資源を備え、一般の人びとが無理なく受けられるしっかりとした公的保健医療システムを再建できるよう支えなくてはなりません」と訴える。
あまりに遅かった初動
MSFは、エボラ流行発生から1年を機に発行した報告書『史上最大のエボラ流行の1年』(http://www.msf.or.jp/library/pressreport/pdf/MSF1YearEbolaReport_23031.pdf)の中で、今回の流行は「途上国の保健医療体制が抱える弱点と、国際援助活動の行き詰まりや停滞」を白日のもとにさらしたと指摘。また、“無策だった世界的連合体”と呼ぶべき国際社会がエボラの脅威に目を向けるまで数ヵ月を要した事態も明らかにした。その間、MSFはたびたび助力を呼び掛けていた。
MSFベルギーでエボラ対応を指揮する ヘンリー・グレイ は「私たちはただもう、あまりに遅かったのです。MSFを含む全世界の初動が緩慢でした。大勢の命と引き換えに得たこの教訓が、今後の同様の事態の再発防止に活かされることを願うばかりです」と述べている。
リベリアでのMSFの活動
リベリアは今回のエボラ流行で、感染者数(疑い例含む)1万564人、死者数4716人という深刻な被害を受けた。国内で流行がピークに達した2014年8~10月の間に、MSFはモンロビアで世界最大のエボラ治療センターとなる「ELWA 3」を開設。同施設の受入能力は最大400床にまで及んだ。リベリア各地のMSFエボラ治療センターで合計1663人の感染確定患者が治療を受け、910人が回復した。
MSFが西アフリカ全体で受け入れた患者は合計9470人。そのうち5170人の感染が確認され、2553人が回復した。また、西アフリカ地域全体で合計14人のMSFスタッフがエボラに命を奪われた。
MSFは現在、首都モンロビアで小児入院施設を運営しており、エボラ流行終息後のリベリアにおける保健医療ニーズへの対応を支援。また保健省との協力のもと、モンロビア市内3地区ではしかの集団予防接種も行っている。
2016年1月14日、世界保健機関(WHO)は西アフリカのリベリアで流行したエボラ出血熱の終息を宣言した。西アフリカ 3カ国を中心に 1万1300人の死者を出した大流行は、2013年12月末の発生から2年あまりで事実上、終わった。ただ WHOは「再発もあり得る」として監視を継続する。
WHOで非常事態リスク管理を担うリック・ブレナン氏はスイス・ジュネーブの国連欧州本部で記者会見し、「西アフリカ 3カ国(ギニア、シエラレオネ、リベリア)で初めて感染の連鎖が止められた」と述べた。リベリア、ギニア、シエラレオネを中心に、ナイジェリア、マリ、セネガル、米国、英国、イタリア、スペインでも感染者が出ることとなったエボラ出血熱の大流行では、WHOの初期対応の遅れが目立った。2014年3月下旬にギニアで正式に確認されたものの、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態(PHEIC)」を宣言したのは8月上旬になってからだという。現場で活動する「国境なき医師団(MSF)」などから非難が相次ぎ、WHOはその後、緊急対応能力の向上などに向けた組織改革を続けている。PHEICの解除については、3月中旬までに開かれるWHOの専門委員会が判断するという。