中央運河の4つの水力式リフト:The Four Lifts on the Canal du Centre(ベルギー)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
unga

2013年8月18日放送「THE 世界遺産 World Heritage」は、「船の巨大エレベーター!運河の旅 ~ 中央運河の水力式リフト(ベルギー)」でした。

 

 

≪夏のベルギー 運河の旅≫

運河で暮らすユニークな家族がいます。貨物船を改造したいわば動く家、船がマイホームです。休暇になれば国境を越えてどこまでも進みます。もちろん食事は船の上、究極のスローライフです。

 

中央運河(Canal du Centre)の水辺を旅します。

100年前、行く手を阻む丘を越えるため、船の巨大エレベーターが生まれました。その動力はなんと水の力だけです。

中央運河の建設が始まったのは、今から125年前に遡ります。最大の難問は、行く手を阻む67mもの高低差でした。それを克服したのが4つの水力式リフトであり、水の力だけで300トンの積荷を載せた貨物船を持ち上げる画期的な技術でした。

 

ベルギーの田園風景を見下ろす高架橋、そこにはなんと水が流れています。実は空を走る人工の水路、空中運河です。巨大な貨物船も悠々と通過していきます。

行く手に高層ビルを思わせる高さ110mの巨大装置がそびえます。その高さは40階建てのビルほどの大きさです。

船がそのまま中へ吸い込まれていきます。運河が下へ動き出しました。これは世界最大級の船のエレベーターなのです。

その原型は100年前、この地に誕生した画期的なリフトでした。船が丘を登るために開発されたのです。100年前の水力式リフトは今も300tの船を持ち上げます。

動力は水、中央運河の水力式リフトは、水の力だけを使った船のエレベーターです。

19世紀、石炭をヨーロッパ中に運ぶため、運河大国のベルギーは一つの頂点を極めました。

夏のベルギー、丘を越える運河の旅の始まりです。

 


大きな地図で見る

 

平原を走る幾筋もの水路。ベルギーには高速道路と同じくらい数多くの運河が延びています。

なかでも100年前に造られた中央運河は大動脈です。かつては大型の貨物船が行き交いました。

古き良き運河をめぐるツアーは大人気です。船はのんびり人が歩くほどのスピードで進みます。(Dagens 2)

運河に沿って延びる並木道。畔には緑の木立が生い茂り、その風景はまるで自然の川みたいです。人の掘った水路とは思えません。

行く手に白い跳ね橋が見えてきました。橋の番人が現れ、ウインチを手で回すと橋桁が垂直方向に持ち上がります。ヨーロッパの運河ならではの昔のままの仕掛けです。

そして目の前に巨大な鉄のゲートが見えてきました。いよいよ中央運河のハイライトです。

100年前、水力を巧みに使った技術で、船は丘を越えたのです。

水門が上に持ち上がり、口を開きました。中にあるのは水を貯めるプール(閘室(こうしつ))です。船が前進して閘室に入ると、水門が再び閉まります。扉が閉まると、船はプールに浮かんだ状態になります。そしてプールは船ごとそのまま上に上昇します。これが19世紀末に開発された水力式リフトです。船は一気に17m上にある水路へと垂直に運ばれます。リフトとは高低差を克服する装置のことです。20分かけて船は上の水路へと登りました。

中央運河にはこのような水力式リフトが4つ連続して設けられています。

中央運河はベルギーの東西を流れる2本の大河を繋いでいます。その中央に立ちはだかったのが高さ67mの丘でした。西から東にかけて標高が高くなります。丘を越えるため階段状に4つの水力式リフトが設置されている7kmの区間が世界遺産です。

これほど短い距離で67mもの高度を上げる運河は世界でもごくわずかです。35年の大工事の末に開通しました。

驚くのはリフトが電気を一切使わずに水の力だけで動くことです。

水力式リフトの仕組みはシンプルです。プールが横に2つ並んでいます。下のプールに船が入ると上にあるもう一つのプールの水量を増やして船より重くします。重い方のプールが下降すると軽い方のプールが上昇します。天秤のように二つのプールが連動しているので、水の重量差だけでシーソーのように動くのです。プールの水量を調節するだけです。まさに100年前の技術の粋です。

プールのサイズは当時主流だった300tクラスの貨物船にピッタリです。

水門の開け閉めにも電力は使っていません。リフトの横に立つ施設に機械室があります。運河から引き込んだ水の力を利用して水門を開閉するための動力を作っています。自然の力だけで動くエコの先駆けです。

完成した当時のまま今も動き続ける世界最古のリフトです。

19世紀、ヨーロッパにおける運河技術の結晶、中央運河の水力式リフトは1998年、世界文化遺産に登録されました。

 

≪船がマイホーム 運河でのんびり暮らす≫

ベルギーには船で暮らす人々がいます。住所が運河です。

古い貨物船を改造した船の船室の中へ。ダイニングキッチンには窓から明るい日差しがたっぷりと入ります。

水道技師のフィリップさん一家は9年前に丘の家を売って船を購入し、運河ライフを満喫しています。

リビングも広いです。

フィリップ・ギユリさん「船はいつでも移動できる。自由なところが船に暮らす醍醐味です。」

水上生活のルールは家族皆で働くこと。水門を開けるのは高校生の息子ローマン・ギユリさんの役目です。

バカンスには運河で国境を越えて、隣国のフランスやドイツまで足を伸ばすこともあるそうです。気に入った風景を見つけたら、そこが今夜の停泊地です。船の上でバーベキューを楽しみます。

まさに運河大国ならではのスローライフの楽しみ方です。

 

≪珍しい旋回する橋≫

夏のベルギー、中央運河を船で行きます。

目の前に一本の橋が水路を塞いでいました。

通行する船が近づくと番人がやってきて、手動の遮断機を倒し、橋を通行止めにします。

橋の真ん中にあるレバーをクルクルと回転させて操作すると、橋桁がゆっくりと横に回り始めました。旋回橋なのです。川に対して垂直に架かっていた橋桁が90度回転して川と平行になり、間を船が通れるようになりました。

このように横に回転する橋は世界でも数えるほどしかないそうです。

 

≪誕生の秘密が地底に≫

4つのリフトで丘を越える運河、なぜわざわざ丘のある難所に水路が通されたのでしょうか?

答えは地底の闇の中にありました。

 

≪運河を繋いだ黒いダイヤ≫

のどかな風景が一変しました。製鉄所です。この一帯がベルギーの産業革命を支えたのです。

地底に眠る黒いダイヤ「石炭」が運河のネットワーク、巨大水路網を繋ぎました。

中央運河に面した製鉄所

毎朝、丸めた鋼鉄の板を船に積み込み、各地に送り出しています。

ここに製鉄所が造られたのは、鉄を生産するのに必要な石炭の一大産地だったためです。

運河の周辺には炭鉱跡がいくつも残っています。良質な石炭が採掘されました。

ベルギー南部、ワロン地方の鉱山遺跡群(ワロン地方の主要な鉱山遺跡群(Major Mining Sites of Wallonia))は、もう一つの世界遺産です。

古い昇降機に乗り込み地下へ下りていきます。

ガイドのウィリー・デスミットさんの案内で地下60mの坑道に向かいます。

ウィリーさんも昔、ここで働いていました。「私がここで働き始めた14歳の時の写真です。」(1953年)

顔が煤だらけです。当時は子どもや女性まで労働に駆り出されました。人がやっと通れる横穴に這いつくばり、過酷な作業だったといいます。ウィリーさんがドリルで実演。

黒いダイヤと呼ばれた石炭は、産業革命をリードするための大切な燃料でした。

ベルギー南部の炭鉱地帯から石炭を運搬するために造られたのが中央運河であり、フランス、オランダ、ドイツを繋ぐ船舶輸送の大動脈となりました。中央運河の完成によってフランスとドイツが直接繋がり、ベルギーはヨーロッパの水運の要となったのでした。

産業革命の進展と共に、運河の建設がヨーロッパ中で進められました。総延長5万kmもの運河ネットワーク、この広大な運河網により、ヨーロッパ大陸のどこへでも船で行けるようになりました。(フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、チェコ、ポーランド、ハンガリー)ベルギーの石炭はヨーロッパ各地に届けられました。

 

現在でも貨物船は様々な荷を運ぶ重要な輸送手段です。

「フランスから来ました。285tの小麦を首都のブリュッセルまで運ぶところです。」

10tトラック30台分をわずか一隻で運搬してしまう貨物船。運河はもっとも省エネの輸送路なのです。

 

≪船が教会 郵便局も≫

ユニークな船を発見しました。屋根の上には十字架が立っています。船の教会です。

運河に生きる船乗りと家族のため、60年前に誕生しました。

船の教会らしく聖母マリアの像が手にする十字架の先端が碇(いかり)の形にデザインされています。

この船は教会の他にもう一つの顔があります。船の郵便局です。

船乗りの多くは住まいも船なので陸上の住所がありません。そのためここに郵便物を取りに来るのです。私書箱のようなシステムでしょうか。

もちろん教会ならではの役割も果たしています。

貨物船の船頭だったピカールさんが奥さんと二人で思い出のアルバム写真をめくります。(1974年)

船で生まれて、船で育ち、船で暮らし、結婚式もこの船の教会で挙げました。

フェルナン・ピカールさん「私は船頭をしていましたからね。当時、仲間はみんなこの船の教会で式を挙げたものですよ。」

永遠の愛を誓ったあの日から40年、思い出はすべて運河とともにあります。(妻クレール・ピカールさんと一緒に)

 

≪高低差67mの丘を一気に超える 世界最大級の船のエレベーター≫

昔ながらの風情を残す中央運河ですが、実はすぐ横にもう一本新しい水路が走っています。大型の貨物船を運ぶために造られた新運河です。

ヨーロッパの運河を航行する貨物船は現在、積載量1350tクラスです。(全長80m、全幅9.5m)100年前に水力式リフトが持ち上げた重さの4倍以上になります。そんな大型船を通すために2002年に開通したのが新中央運河でした。

のどかな水辺に突然、前方に巨大なビルがそびえています。

高層ビルを彷彿とさせるリフトの施設、かつて4つのリフトを階段状に使って克服した67mの高低差をたった一つのリフトで軽々と越えます。船のエレベーターとしては世界最大級です。

下の水路からそのまま巨大リフトの中へと進みます。船が入ると水門を閉じてプールごと持ち上げます。その仕組みとしては100年前とほぼ同じです。

制御室にはコンピュータが並びます。最先端のコンピュータ制御です。

エンジンルーム、動力は電気です。モーターが回りケーブルが動き始めました。

一つのプールで一度に何隻も一緒に持ち上げることができます。

かつて半日掛けて越えた丘も、わずか40分に短縮されました。

リフトの脇にぶら下がっているのはコンクリート製の重りで、ワイヤーケーブルでプールと繋がっています。重りが下がっていくと、船ごとプールが上昇する仕組みなのです。

上階に到着し扉が開くと、船は上の水路へと出て行きました。

 

活躍の表舞台から去った中央運河の水力式リフト、一時は取り壊しの声も上がりましたが、水辺の景観は、開通当時のままに保存されています。地元の保存運動によって昔のままの姿で残されたのでした。

今では、その世界最古のリフトは運河を愛する人たちにとって一度は乗ってみたい憧れの的になっています。

丘を越えて100年、宝物のような水辺の風景が息づいています。

 

プエルト・プリンセサが織り成す自然、その山も、川も、森も、海も、すべては地底と繋がっています。

 

 

アクセス:
ベルギー王国(Belgium)

中央運河の水力式リフトThe Four Lifts on the Canal du Centre and their Environs, La Louvière and Le Roeulx

エノー州ルヴィエールとルルーにあるサントル運河の4つの閘門と周辺環境
The Four Lifts on the Canal du Centre and their Environs, La Louviere and Le Roeulx(Hainault)

ルヴィエールとルルーは、エノー州の州都モンスの東十数kmの場所にある。中央運河は、1888-1917年に、東側のムーズ川と西側のエスコー川のドックを連絡して、ドイツからフランスへの通行を実現する為に建造された。4つの巨大なボート・リフトがある閘門は、ルヴィエールとティウ間にある67mの高低差を内部の水位を調節することで解消する仕組みで設けられ、現在も稼働している。中央運河の4つの閘門は、19世紀のヨーロッパにおける運河建設や水力利用技術の一つの頂点を示す産業遺産であり、運河上の橋梁、付属建築物なども含めて世界遺産に登録されています。


大きな地図で見る


大きな地図で見る

 

 

————————————————————————————————————–

(2013年8月25日は放送休止です)

関連記事

コメント

    • k-co
    • 投稿日 (Posted on):

    自宅で食洗機が大活躍していますが、小物NGなのが悩みの種でした。
    お弁当のシリコン製の仕切りやピックなどの小物などは奈落の底へ・・。
    こういった小物は手でもなかなか洗いにくいんですよね。
    検索してみたら、やはりありました!「食洗機用の小物カゴ」。小物をまとめられて便利♪
    やっぱり悩むことはみんな一緒なんだなと感じた瞬間でした。

  1. 2013年 8月 20日

*

人気記事ランキング-TOP50

Twitter

  • SEOブログパーツ
ページ上部へ戻る