ゾウが守った巨木の森:ドンパヤイェン・カオヤイ森林群(タイ)

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2013年9月8日放送「THE 世界遺産 World Heritage」は、「大集合!穴を掘るゾウの謎 ~ ドンパヤイェン・カオヤイ森林群(タイ)」でした。

 

 

≪凶暴な犬≫

インドシナ半島最大の森「カオヤイ」には、ワイルドドッグと呼ばれる野生の犬がいます。

一見大人しそうですが、実は凶暴です。集団で獲物をハンティングします。30分とかからぬうちに骨だけになってしまいました。

不思議な珍獣

奥地に分け入ると、同じ種類のサルなのに全く毛色が違うペアがいます。

森にポッカリと空いたクレーターのような謎の窪地では、子ゾウが大喧嘩です。

森には不思議がいっぱいです。

 

熱帯アジアのタイ(Thailand)に広がる深い森、カオヤイの森(Khao Yai Forest)です。

地上30mの巨木に、なにやら奇妙な鳥かごが取り付けられています。中に居たのは人間でした。ここは観察台です。近年、森の上には全く違う生物の世界があると注目を集めているのです。

樹上の生き物たち

一生を木の上で過ごすテナガザル

地上30mもの高い木の上を歩くマレーグマを発見しました。毎日10階建てのビルの高さを登ります。いったいなぜでしょうか?

果てしない森は絶滅危惧種をはじめ、命の宝庫です。

撮影隊は樹上の世界へ向かいました。

森にポッカリと空いた草原にある地面が剥き出しになった謎の窪地には、ゾウの群れが集まります。

 

≪野生のゾウと会える道≫

1000m級の山々が連なるドンパヤイェン山脈の南部に広がるのがインドシナ半島最大のドンパヤイェン-カオヤイ森林群です。西側がカオヤイ国立公園で、隣り合う5つの保護区の中の1つです。カオヤイはタイで最初の国立公園に指定されました。

森を通る自動車道(舗装された道)はわずかに1本だけです。

絶滅危惧種に指定されているアジアゾウが姿を現しました。野生のアジア象には滅多にお目にかかれません。大人のメスと子どもたちで家族ごとに暮らしています。大きなものは体重5t、1日に200kgもの草や木の葉を食べるので、広大な森がなければ、生きてゆけません。長い鼻を使って仲間とコミュニケーションを図ります。耳の後ろを触るのは親愛の証しです。彼らは餌場を求めて絶えず移動しています。

 

ゾウを追って撮影隊は森の奥へ

≪ゾウが守った巨木の森≫

第1の驚き、巨木の森を守ったのはゾウの悲劇でした。

ゾウたちが踏みならした獣道を辿っていきます。

空洞の巨木

傍らにイチジクの大樹が生えています。高さ40mのイチジクの大木は元々ここに生えていた木に根を巻き付けて絞め殺しました。元の木はイチジクに取り憑かれて枯れてしまったため、中は丸い木の幹の形状を保ったまま空洞になっています。

一年中、果実を実らせる木々は地面に多くの実を落とします。ブタオザル(絶滅危急種)の群れが集まってきました。警戒心が強く普通は人前に姿を現しません。

シカのような姿のサンバー(絶滅危急種)もやって来ました。森の豊かな恵みが、貴重な動物たちを養っています。

 

ヘウナロックの滝は、カオヤイ最大の滝です。落差は150mあり、3段に連なっています。

20年前、レンジャーが見つめる先で悲劇が起きました。

国立公園レンジャーのプラコーン・コユッタクラーンさん「7頭ものゾウが滝から落ちて、目の前で死にました。ニュース映像が流されると国中の人々が胸を痛めたのです。」

1987年撮影された映像では、滝の上流を渡ろうとしたゾウの家族が激流に流されます。滝壺の中で藻掻く子ゾウは為す術もなく、流されたゾウの家族は1頭残らず命を落とし、息絶えました。事故の原因は不法伐採で、餌場を失ったゾウたちが滝を越えて対岸へ行こうとしたのでした。この悲劇をきっかけに、タイは森林保護へと動き出しました。カオヤイの森は生き長らえることができたのです。

今では厳しいルールも制定されています。道にゾウが現れた時は、ゾウが通り過ぎるまで待つのが決まりです。

かつては国土の7割が森で覆われていたタイですが、それが現在わずか3分の1になりました。

アジアゾウは仲間の命と引き換えに、巨木の森を守ったのです。

 

≪願いが叶うゾウの寺 鼻で絵を描くゾウ画伯≫

タイでは昔からゾウは神聖な生き物であり、特別な存在として大切にされてきました。

カオヤイ国立公園の一角にあるお寺には、大小様々なゾウの置物がいっぱい飾られています。願いが叶った人々が奉納したのだそうです。

祀られているのはゾウの牙です。

子宝を授かった女性「今日は感謝の報告に来ました。ゾウは私たちの心の支えなんです。」

 

タクラン村は近郊の象使いの村です。

日課の水浴びをしています。

人々は昔からゾウと一緒に暮らしてきました。

一番の人気者が絵描きゾウのナムペットちゃん(11歳)です。鼻先で絵筆を掴んで絵を描く画家です。まるで指のように動く鼻先は、人間の手先よりも器用なのだそうです。赤い薔薇の木を描きました。その出来映えにはゾウの優しさが漂います。

 

≪樹上30mの世界≫

熱帯のモンスーン地域のカオヤイでは、大量の降雨が豊かな森を育みました。

第2の驚きは高さ30mの樹上の別世界です。地上とは全く異なる、生き物たちの世界があります。

森の奥深く、カオヤイで生態調査を続ける研究者がいます。彼らのフィールドワークは独特です。高さ30mにもなる高い木々の一番上に小屋を建てようというのです。ビルの10階ほどに相当する高さです。手足を掛ける枝もなく、ロープ1本でよじ登ります。

バンコクから北東へ200km、カオヤイの森の中で、研究者は樹上に観察台を設置しました。そのスペースは畳一畳ほどです。ここで動物たちが動き出すのを待ちます。

高さ30m、林冠(りんかん)と呼ばれる森の上は、太陽光を受ける樹木の上層部です。太陽の光が明るく降り注いでいます。

森の植生はほとんどが緑の葉を落とさない広葉樹です。一年中どこかで木の実がなります。

研究者は森の上だけの生態系があると考えています。

林冠の研究者、ピタヤー・チュアイルアさん「ここでどんな動物がどのように活動しているのかを調べています。高い木の上でしか見られない貴重な動物が多いのです。」

森に響きわたる甲高く美しい鳴き声の主は、シロテテナガザル(絶滅危惧種)です。ゴリラやチンパンジーと同じ、尻尾のない類人猿です。一生のほとんどを高い木の上で過ごします。体毛の色は黒や白など様々です。長い腕を使い、体を振り子のように揺らして反動を付け、エサを求めて枝から枝へと飛び移ります。

体長1mの大きなリスも食事中です。クロオオリス(近 絶滅危急種)です。

観察台のスタッフから地上に連絡が入りました。高い樹上の幹を歩いているのは体長150cmほどの黒いマレーグマ(絶滅危急種)です。森の上には好物の木の実がいっぱいなのです。マレーグマは匂いを頼りに毎日高さ30mを登り降りしているのだそうで、下りの様子はちょっとおっかなびっくりで転げ落ちたりしないかちょっとハラハラさせますが、木登りが上手なクマのようです。

一際目立つ鳥がオオサイチョウ(近 絶滅危急種)です。東南アジアの限られた森だけに生息しています。オオサイチョウは独特の子育てを行うことで知られます。巨木の洞(うろ)が巣です。親鳥は喉袋から木の実を吐き出しヒナに与えます。オオサイチョウの貴重な映像、メスがヒナ鳥の居る巣の中に入ると、隙間を残して入り口を塞いでしまいます。子育ての4ヵ月間、閉じ籠もります。その間、食べ物を運ぶのはオスの役割です。ヒナが成長すると、メスはヒナを残して外に出ます。そして巣立ちの時を迎えるのです。

森の上には、知られざる命の輝きがありました。

 

≪コウモリの洞窟 積もったフンの利用法≫

夕暮れ時の午後6時、毎日カオヤイ近郊で面白いショーを鑑賞できます。

一斉に黒い影が空に飛び出して来ました。300万匹のコウモリの大群です。夜の森で昆虫や果実を食べます。

岩肌の崖に大きな横穴が口を開けています。ここがコウモリの住む洞窟です。このような場所が格好の隠れ家なのです。

ヒダクチオヒキコウモリ

地面にうずたかく積もっている大量の黒褐色の砂はコウモリのフンです。裸足のまま踏み込み、桶と素手を使って持参した大きなバケツの中にどんどん汲んでいきます。一体何に使うのでしょうか。

「農作物の肥料として売るんです。普通のものより5倍の栄養があります。」コウモリの糞は天然の肥料であり、地元では昔から利用してきたのだそうです。

 

≪ゾウが大集合する謎のクレーター≫

森の中にぽっかりと開けた草原。クレーターのような穴がいくつも空いています。横幅15mほどの窪地です。穴へと続く道が延びています。

カオヤイの森で不思議な地形を発見しました。

第3の驚きはゾウが掘った穴です。なぜその穴にゾウが集まるのでしょうか。

そこだけ開けた草原の獣道を進むと、地面が剥き出しになった穴が空いています。

深く抉られています。土の壁に残るのはゾウの牙で削られた痕です。

公園レンジャーのプラコーン・コユッタクラーンさん「ここはゾウが掘った穴で、『塩場(しおば)』と呼ばれます。彼らは生きるために欠かせないミネラルを、塩分を含んだ土を食べることで補給しているのです。」

ゾウは森にある塩場を渡り歩きます。

待つこと1週間。姿を現したゾウの群れは塩場へまっしぐらに進みます。鼻先で土を掴むと口へ入れて食べています。鼻を器用に使って壁を削りながら塩分の多い土を探しています。さらに前足に体重を掛けて穴を掘っています。しゃがんで直接地面に口を付けて囓る姿もあります。彼らは塩分がある場所を匂いで探し当て、こうして地面を掘り返すのです。ゾウたちが何度も通ううちに森は草原に変わりました。

子ゾウたちは土を取り合って喧嘩することもあります。すぐに親が子ゾウをなだめます。

ゾウたちは自分たちの塩場の在処を親子代々伝えてきたのです。

塩場にはシカなど他の草食動物も塩分を摂りに集まります。ゾウは穴を掘ることで森の命を守っていました。

 

絶滅の恐れがあるアジアゾウが暮らすカオヤイの森は、2005年世界自然遺産に登録されました。

 

巨木の森が紡いできた長い時の果てには、かけがえのない命が包み込まれています。

 


大きな地図で見る

 

アクセス:タイ王国(Thailand)

ドンパヤイェン-カオヤイ森林群(ドン・ファヤエン-カオ・ヤイ森林保護区)
Dong Phayayen – Khao Yai Forest Complex

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