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薔薇の花が咲き誇るペルシアのエラム庭園:Eram Garden(イラン)
2013年7月7日放送「THE 世界遺産」は、「地下水路が生んだ砂漠の楽園 ~ ペルシア庭園(イラン)」でした。
≪古代ペルシアの謎 砂漠になぜ水と緑の楽園があるのか?≫
イランの砂漠に新兵器の小型ヘリコプターが登場です。
映画製作が盛んなイランでは近年こうしたリモコン撮影(空撮)の技術が急成長しました。
オペレーターも経験豊富な腕自慢です。
カメラを搭載してスタンバイ完了。真っ直ぐに世界遺産「シャーザーデ庭園」の上空へ飛んでいきます。
(FARADID aerial imaging group)
砂漠に浮かぶ人工の楽園(パラダイス)、水と緑の奇跡。
乾いた大地に水と緑を生み出すため、古代ペルシア人は途方もない富と知恵を詰め込みました。
世界中の庭園のルーツは、このペルシャ庭園にあるといいます。
≪砂漠に深い穴≫
果てしなく砂漠が広がる国、イラン(IRAN)の乾いた大地に不思議な縦穴を見つけました。
この掘り抜き井戸から地底に降りて、さらに狭いトンネルを奥へと進みます。
足元には水の流れがあります。古代の水道が走っているのです。ここは隠れた地下水路です。
水は砂漠の大地に美しい庭を生みました。そこはまさに楽園です。
ペルシャ(ペルシア)とはイランの古い呼び名です。
エラム庭園
2500年前に大帝国を築いたペルシャは画期的な庭園の形を生み出しました。
シャーザーデ庭園
ほとばしる噴水、涼しげな木陰、ペルシャ庭園はその後ヨーロッパに伝わり、庭園文化のお手本となったのでした。
フィン庭園
古代の知恵が生み出す驚くべき水の魔法、地上に現れた楽園の秘密とはどんなものだったのでしょうか。
≪シャーザーデ庭園≫
砂漠の真ん中に一ヵ所だけ緑の溢れる場所があります。
不毛の大地を壁で四角く囲い込んだペルシャ庭園は、まさにオアシスです。
王子の庭園とも呼ばれるシャーザーデ庭園は、19世紀、王家の離宮でした。
城門をくぐり一歩中へ足を踏み入れると、そこはもう砂漠とは思えない光景です。
通路を挟んで多彩な木々が生い茂ります。
真っ直ぐ一直線に奥まで伸びた中央水路には、小川のようにとうとうと透明な水が流れています。
溢れる水が潤す豊かな緑に、小鳥も飛んできてさえずる、その全てが人の手によって作り出された人工の世界です。
砂漠の暑さを忘れさせるような心地良い木陰の下を人々が歩いて通り過ぎていきます。
庭園は過酷な地に住む人々の「夢の結晶」なのでした。
≪砂漠の国の地下水路≫
ペルシャ庭園を流れる大量の水はいったいどこから来たものなのでしょうか。
平坦な砂漠にこんもりとした小さな小山が点々と続くのが見えます。実はこの下に全長60kmにもわたるトンネルが通っています。カナートと呼ばれ、掘り抜き井戸を地中で横に繋げた砂漠の地下水路です。
小山の一つ一つが縦穴を掘った跡で、マンホールのようになっています。この縦穴の底からさらに横にトンネルを掘り進めることによって、長い水路を繋いでいったのでした。
古代ペルシャ人が作り上げたカナートは今も現役で使われています。
定期的に点検を行うため、昔から職人たちはロープ1本で吊されて縦穴の中に入り、底へと降りていきます。
ロープの巻き上げ機を使いゆっくりと、穴の中へ。
穴は深く、直径は人一人がやっとの大きさです。壁は乾いていて脆く、すぐに剥がれ落ちてしまいます。
人力でコツコツと掘られた狭い地下水路が続き、その足元には今も水が流れています。
水路の底に緩やかな傾斜が付けられていて、水は山の水源から自然の力で導かれています。
カナート技師のマシャラ・ホールザデさん「見てごらん。水流のせいで壁が崩れかけているよ。」
落石を発見すると、石をどかして水の流れをスムーズにします。
古代の水道を使い続けるためには、こうした点検、補修とメンテナンスは欠かせないそうです。
地下に水を通すことで太陽による蒸発を防ぐという知恵を活かした2500年も前の技術が、今も大切に守られています。
カナートは中央アジアから北アフリカまで伝わり、辺境の土地を次々に潤していきました。
こうして山から運ばれてくる大量の水が絶え間なく水路を流れ続けています。
水さえあれば、砂漠に緑のオアシスを作ることもできるのです。
≪パラダイスの起源 水と果実が溢れる園≫
シャーザーデ庭園はなだらかな斜面の上に築かれました。
取水口から引き込まれた水は自然の地形を活かして園内の勾配を巡ります。
水路を流れる水音も涼しさの演出です。
先祖の代から管理人を務めているアクバル・マーハーニーさんは庭園に植えられた植物の一本一本に至るまで全て知り尽くしています。
プラムの木には青い実がなっていました。
アクバル・マーハーニーさん「この実は食べられますよ。まだ少し酸っぱいですが、じきに甘くなります。3ヵ月かけてだんだん熟して美味しくなるんです。」
アーモンドの実
イチジクの実
果実が実り、木陰に花々が咲くペルシア庭園は、まさに砂漠に作られたこの世の天国であり、砂漠の楽園です。
古代ペルシャで生まれた庭園はパルディスと呼ばれます。それは楽園を意味するパラダイスの語源となりました。
≪古代ペルシャから世界へ広まった水の庭園≫
古代ペルシアから水の庭園文化は世界へと広まりました。
スペインの世界遺産、アルハンブラ宮殿 ヘネラリーフェ離宮(グラダナのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン(Alhambra, Generalife and Albayzin, Granada))では、至る所を巡る水の回廊が心安らぐ水音を奏でます。
水面に映る純白のドームを持つインドの世界遺産、タージマハル(Taj Mahal)の美しさの秘密は、直角に交わる水路で区切られたシンメトリー(左右対称)です。
フランスの世界遺産、ヴェルサイユ宮殿と庭園(Palace and Park of Versailles)では噴水と滝を幾何学的に組み合わせています。ヨーロッパ中の王家がこれを真似しました。庭園美はフランスで完成の極致に到達しました。
≪バザールで発見 絨毯になったペルシャ庭園≫
シルクロードで栄えたペルシャの市場バザールには、今も人と物が溢れます。
ペルシャ絨毯(じゅうたん)のお店がずらりと軒を連ねています。
お馴染みのそのデザインは、実はペルシャ庭園と深い繋がりがありました。
≪楽園のデザイン ペルシア絨毯の秘密≫
イランの各地に建設されたペルシャ庭園、9ヵ所が世界遺産に登録されています。
その中でもフィン庭園は最高傑作と呼ばれます。
ペルシア絨毯のデザインになった楽園:フィン庭園
フィン庭園は1200年の歴史を持ち、水路に沿って規則正しく均等に木々が並んで植えられています。
フィン庭園にはヨーロッパに影響を与えたペルシャ庭園の特徴的なスタイルが、最も良く残されているそうです。
早朝、庭師たちの大事な仕事はまず芝生への水まきから始まります。
砂漠の強い日差しの下では、大量の水を撒かないと芝はすぐに枯れてしまうのだそうです。
青々とした芝生の緑は、王侯貴族だけに許された贅沢の極みでした。
中央園亭は庭の中央に建つパビリオンです。建物内にも池が造られ、涼しげな空気が立ち込めます。
小園亭
心地良い場所に身を休めながら水と緑の眺めを楽しんだのです。
ペルシャ庭園には決まった形があります。
高い塀で囲まれた空間を十文字に走る水路で四角く区切り、区画毎に植物を植え分けました。
庭園の四角い形はすなわち楽園の姿であると、ペルシアの人々は信じるようになりました。
ペルシア絨毯のデザインも庭園そのものであり、十字に区切られた枡目の中に木々や花々が描かれています。一枚の絨毯を敷けばそこに天上の楽園が現れるのです。
≪水を操る魔法のようなからくり≫
水源の池
フィン庭園で一番の高台にある池はこの庭園の水源です。庭園に引き込まれた水が池の底に空いたたくさんの穴から湧き出しています。穴の縁に生えた藻類(水草)が湧き出す透明な水流の中でユラユラとたなびいています。
庭園管理局のアミール・ムーサヴィーさん「水源の池から下の池に流れる水路にはわずか30cmの段差が作られています。そこに生まれる水圧で噴水が噴き出します。こうした仕掛けが水を庭中に行き渡らせていくのです。」
動力は一切使わず、噴水さえもが自然の水圧で噴き出す、これが古代ペルシアに始まる水のマジックです。その全ては段差を流れ落ちていく水の力、重力によるものなのです。ここにヨーロッパの庭園デザイン、庭園文化の原点があります。
≪世界が憧れる伝統工芸≫
ペルシアといえば絨毯です。
ペルシア絨毯は全て手織りで、古くから女性たちが織り上げてきました。
ケルマーン絨毯工房のアリ・サダディさん「ペルシア絨毯には2500年の歴史があります。鮮やかな色の糸を様々に組み合わせて織っていきます。とても細かい作業です。良いものは外国の美術館にも展示されていますよ。」
1cmの幅に50~60本の縦糸があり、そこに色の付いた横糸を1本1本、手で結んでいきます。
女性のしなやかな指ならではの手業の結晶なのです。
完成まで小さなものでも2年ほど要するといわれ、一枚300万円は下らない美しい工芸品です。
≪古代ペルシアの香り≫
イラン南西部のシーラーズは90万人が暮らす大都市です。
そのビルの谷間の中に緑のオアシス、エラム庭園があります。
5月、庭園にはバラの花が咲き乱れます。
エラム庭園内に咲き誇るバラ園の花を目当てに、春になると多くの観光客が訪れます。
色とりどりのバラの花にはペルシアの思わぬ物語が秘められています。
薔薇の園:エラム庭園
エラム庭園に咲くバラは350種類ともいわれます。
ペルシャはバラの原産地の一つといわれています。イランの国花はバラで、花と言えばバラを意味するのだそうです。
19世紀に建てられた離宮は庭を見渡し花の盛りを楽しんだ館で、前庭の池の鏡のような水面にその姿を映しています。
特別に離宮の内部を見せてもらいました。清潔感のある純白一色で統一された天井と壁が印象的な廊下です。
庭園管理局長のハミート・サッタリさん「ここは2階の中心にあるホールで、王族が客人を迎えた場所です。時には国家的な行事などもここで行われました。」
天井のシャンデリアとシックなステンドグラスの窓があります。部屋の壁も純白で統一されています。
続いて、20世紀にイラン最後の王朝となったパフラヴィー朝が滞在した「王の間」に案内されました。
王の間の天井にはピンク色のバラの花、ペルシャ絨毯のような模様が一面に描かれ、ステンドグラスの窓から取り入れられた明るい日差しが部屋中に満ちています。
≪クレオパトラが愛したバラの香料≫
バラの栽培は世界に先駆けて古代ペルシアで始まり、バラの花びらから作る香料を発明したのもペルシャ人でした。
ガムサール村
山村のばら園では昔ながらの花の手摘みが行われています。
ムハンマディ・ローズは鮮やかなピンク色が美しい香料用のバラの品種です。
摘んだばかりのバラの花を香りが抜けないうちに大釜へ入れて熱し、3~4時間かけてじっくりと蒸留します。
古代ペルシアで生み出されたバラの香りは、かのクレオパトラをも虜にし、愛用されていたといわれます。
今はペットボトル詰めにしたローズウォーターが人気です。お風呂に入れたり、お茶に加えたりして香りを楽しみます。
イランで愛され続ける大輪のバラが咲き誇る春の庭園は、毎年香しい芳香に包まれます。
庭園には心癒やす水と緑の木陰、しかし、そこから一歩外に出ると目の前には過酷な自然が広がります。
ペルシア庭園とは、砂漠の民の憧れを詰め込んだ夢の国であると同時に、彼らの英知が結集され作り出された、砂漠に浮かぶ人工のパラダイスなのです。
アクセス:イラン・イスラム共和国(Iran)
イランのファールス州シーラーズ市、イスファハーン州イスファハーン市、マーザンダラーン州ベフシャフル市、ケルマーン州マーハーン市、ヤズド州ヤズド市とメフリーズ市、南ホラーサーン州ビールジャンド市の6州7市にまたがるペルシャ様式の9つの庭園群です。
パサルガダエ庭園(紀元前6世紀造園)
エラム庭園(Eram Garden)(11世紀)ファールス州の州都シーラーズ市
チェヘル・ソトゥーン庭園(17世紀)
フィン庭園(Fin Garden)(18~19世紀)イスファハーン州イスファハーン市カーシャーン
アッバス・アバド庭園(18~19世紀)
王子の庭園(シャーザーデ庭園、Shahzadeh Garden)(18~19世紀)ケルマーン州マーハーン市
ドウラト・アーバード庭園(18世紀)
パーラヴァーンプール庭園(18~19世紀)
アクバリイエ庭園(18世紀)
ペルシア庭園(ペルシャの庭園)
The Persian Garden
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(2013年7月14日は放送休止です)
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2015年12月20日未明、名古屋市中川区の市道で外国人とみられる複数の男から集団暴行を受け、死亡した男性は20代のイラン人で、麻薬密売グループに関係するとみられる。現場近くからは注射器数十本が見つかっており、愛知県警は薬物をめぐるトラブルの可能性もあるとみて捜査を進めている。また、襲撃グループが逃走時に使った黒っぽい車両が、名古屋市内に放置されていたことも新たに判明。県警は犯人に結びつく手がかりが残されている可能性もあるとみて調べている。中川署の捜査本部によると、死亡した男性は20日午前1時半ごろ、同区西日置1丁目の市道でワンボックス車を運転中、2台の車に前後を挟まれ、外国人とみられる複数の男らにバットや刃物で襲われた。男性は近くの店に血まみれの状態で助けを求め、病院に搬送されたが、約6時間後に出血性ショックで死亡した。付近住民が撮影した動画には、男らの逃走後、男性が中央分離帯の植え込みに黒いポーチを放り込む様子が映っていた。県警は22日までにポーチを押収し、中に注射器数十本が入っているのを確認した。また、外側には血痕が付着していたという。動画には男らが、ペルシャ語で叫びながら別の黒っぽい車に乗り込み、いったん北方面に走り去る姿も映っていた。数分後、この車は現場に戻り、1人が被害者が乗っていた車両の車内などを確認。その後、再び北方面に発車し、西に向かって左折したという。県警は周辺の防犯カメラの映像を分析し、男らの行方を追っている。