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コイバ国立公園の無人島-コイバ島:Coiba Island(パナマ)
2013年6月16日放送「THE 世界遺産」は、「珍獣がいっぱい!太平洋の孤島 ~ コイバ国立公園(パナマ)」でした。
≪ワニ釣り≫
太平洋に浮かぶ楽園、釣り糸を海へ投げ込むと、現れたのは巨大なアメリカンクロコダイルでした。気性が荒く、人を襲うこともあるアメリカンクロコダイルをすぐ間近で見ることができるそうです。
赤道に近い太平洋、中米パナマの沖合に浮かぶ孤島「コイバ島(Coiba Island)」に日本のテレビカメラが初上陸しました。
コイバ島の周囲は珊瑚礁の海に囲まれ、海岸線には広大な干潟、そしてマングローブ林が生い茂っています。
≪不思議な光景≫
海辺の干潟では辺り一面にカニの姿、シオマネキです。あっちへこっちへと横歩きで移動しながら、大きなハサミが付いた片手を挙げたり下げたり手招きのような仕草をしています。オスがメスの気を惹くために求愛のダンスをしているのだそうです。
コイバホエザル
グリーンイグアナ
ノドジロオマキザル
コイバ島には珍しい生き物ばかりです。
コイバ島とそれを取り巻く熱帯の海、周辺の海域には東太平洋で最大の珊瑚礁が広がっています。
人が住まない無垢な島、生き物たちは今まさに進化の途中です。
コイバ島は無人島。そのためコイバ島に行くためには、パナマの小さな漁港サンタカタリーナで船をチャーターする必要がありました。
水も食料も全てを船の中に積み込んで出発します。
コイバ国立公園は東太平洋に浮かぶ38の島々と周辺の海域からなる世界遺産です。
日本の屋久島ほどの大きさのコイバ島(Coiba Island)がコイバ国立公園の中心地です。
潮が引くと遠浅の海岸には砂地が顔を現し大きな干潟が広がります。
島の奥には原始の森が広がっています。島の8割が原生林地帯となっているそうです。
撮影隊が森の奥深くへと分け入ります。
≪珍獣がいっぱいの孤島≫
ガイドさんが頭上の樹の上に茶褐色の「こぶ」を発見しました。蜂の巣でしょうか。ナイフでこぶの表面を削り取ると現れたのは無数のシロアリでした。シロアリの巣だったのです。シロアリは土やフンを固めて巣を作るそうです。
ガイドのアリシーソ・バスティダスさん「シロアリはトカゲなどに襲われないように樹の上に巣を作ります。シロアリの巣の中には数十万匹も生きているんです。」
深い森にはこの島だけにしか棲息しない生き物ばかりです。
鮮やかな赤い羽根、体長1mにもなる大きな鳥の群れが樹の上に留まっています。絶滅危惧種に指定されているコンゴウインコです。パナマ本土では住処が激減し、コイバ島が最期の避難所になっていました。
高い樹の上で鳴き声を上げているコイバホエザル(固有亜種)は、縄張りに入った者を吠えて威嚇します。コイバホエザルは元々南米が起源とされていますが、こんな孤立した島に一体どうやってやってきたのでしょうか。
マングローブの木の根元には赤い鼻先に毛のない尻尾の先、大きなネズミのような姿をしたヨツメオポッサムがいました。オポッサムはお腹の袋で子育てを行う有袋類で南米大陸が起源の動物です。なんとなく雰囲気がタスマニアデビルに似ているような気がしますが。こちらのオポッサムのほうがネズミっぽくて可愛げがあります。
コイバ島にしかいない珍しい動物(固有種)が20種類以上も確認されているそうです。太平洋の孤島になぜでしょう。
≪進化する珍獣≫
400万年前、地殻変動の影響を受けて北アメリカ大陸と南アメリカ大陸とは陸続きになっていました。現在のパナマ一帯はちょうど動物たちの通り道となっていて、北アメリカからはジャガーやハナグマなど、南アメリカからはオポッサムやホエザルなど、多くの種類の動物たちがやって来で移り住みました。
その後、2万年前頃になると海面が上昇します。海面上昇の影響によってコイバ島は周りを海に囲まれるようにして大陸から切り離され孤立することになりました。
コイバ島に取り残されてからおよそ2万年もの歳月が流れる中で、動物たちは独自の進化の道を歩んできたのでした。
たとえば北米大陸を起源とするアグーチですが、コイバアグーチ(固有種)はコイバ島の環境に合わせて小さな体格、まばらな体毛へと進化してきました。
ノドジロオマキザルがやって来ました。祖先は南米大陸がふるさとです。コイバ島のノドジロオマキザルは毛色などがわずかに異なるそうです。すらりと細身でなかなかスタイルが良く、後ろ足で背筋を伸ばして立ち上がる姿も立派で6~7頭身ほどはあるでしょうか。まるで西遊記に出てくる孫悟空のような雰囲気です。小さな顔はニホンザルにも似ています。彼らの表情とその仕草を見ているとなんだか人間のようにも見えてきます。
海に浮かんで閉ざされた島の森、そこは珍獣たちを乗せた”進化の方舟(はこぶね)”でした。
≪憧れの無人島ライフを満喫≫
コイバ島は自然のままの姿を残した無人島ですが、許可を得れば旅行者でも上陸することができるのだそうです。
但し、誰も住んでいないためホテルのような宿泊施設はなく、素泊まり専用の公園ロッジが8棟あるのみです。
青く美しい海と静かな時間だけがたっぷりとある場所なのです。
もちろんレストランなど飲食店も存在しないため、毎日持ち込んだ食材で自炊生活です。
料理は簡単で、かまどでたっぷりと湧かしたお湯の中にパナマ産のロブスターを入れて豪快にボイルします。茹でたロブスターの背中を割いたらホクホクの身に辛くて酸っぱいサルサソースを載せて出来上がり、南国気分満点の味わいです。
コイバ島で唯一の観光名所と呼べる場所は刑務所跡の廃墟だけです。表にPenitenciaria(刑務所)と書かれ、鉄格子がはめられた窓、味気がないコンクリートの打ちっ放しの壁でできた平屋の建物が、雨晒しにされながら海辺にひっそりと佇んでいます。
コイバ島は2004年までの間、パナマの流刑地だったのです。刑務所は20世紀の初めに建てられたそうです。
流刑地ゆえに開発が進まず、貴重な自然が失われることなくそのまま残ったというわけでした。
≪パナマの地形に守られたサンゴの海へ≫
コイバ島を取り巻く広大なサンゴ礁の海も世界遺産に登録されています。
日本の撮影隊が初めて海底に潜りました。
海洋ではギンガメアジの大群が泳いでいます。
ネブリブカが海底に寝そべっています。昼間は大人しそうに見えますが夜になると獲物に襲いかかる獰猛なハンターに変わります。
フサカサゴの仲間が海草にカモフラージュしています。岩肌に擬態するものもいました。肉食魚から襲われるのを避けているのです。
海底の砂地に大きな目玉模様を発見しました。こちらはシビレエイの仲間で、外敵はこの背中に付いた大きな目玉模様を怖がって近づかないのだそうです。
東太平洋随一の珊瑚礁といわれ、これだけ広大な規模のサンゴ礁は、東太平洋では他に見ることができないそうです。
サンゴ礁はいわば海の森です。大海を越えて多くの魚たちが集まってきます。
サンゴを住処にしているギンポがいました。
黄色い体色をしたコクテンフグは固い歯を使って珊瑚礁を丸ごと囓っています。隙間に隠れている小さなカニやエビを食べているそうです。
コイバにこのような珊瑚礁が広がったのには理由がありました。
コイバのすぐ隣のパナマ湾の海域では不思議なことに珊瑚礁が存在しません。コイバとパナマ湾、二つの海の違いは年平均海水温度にありました。コイバでは年平均海水温度が摂氏25度~30度ありますが、パナマ湾は25度よりも低いのです。この年平均海水温度の違いは大陸の地形にありました。
スミソニアン熱帯研究所のフアン・マテー博士「コイバの東側にある大陸には高度3000m級の山脈がそびえています。その山々が壁となってコイバの海には風が吹き込まず、常に水温が安定しているのです。」
パナマ湾側の陸地にはカリブ海から吹いてくる北東の冷たい風をシャットアウトするような山脈が存在しません。そのためカリブ海からの北東風は直接パナマ湾に吹き付け、深い海底の冷たい水を上昇させるため、海水は冷たくなりサンゴが住めないのだそうです。
サンゴは海水温が低いと育たず、高くなると死滅します。コイバの海域を取り巻く独特の地形が絶妙な水温を保っているおかげで、東太平洋随一の広大な珊瑚礁が生まれたのでした。
※気象庁によると2013年8月9日以降、沖縄周辺の広い海域で海面温度が外洋ではこれよりも暖かくならないとされる31度以上になりました。環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター(沖縄・石垣島)によると「高い海面水温が続いた場合、サンゴに共生する植物プランクトンである褐虫藻の活性が弱くなって白化現象が起こる。白化の状態が続くとサンゴの死に繋がる」のだそうです。
≪パナマ運河≫
首都パナマシティには高層ビル群が林立しています。
カリブ海と太平洋を結ぶパナマ運河(panama canal)はパナマに繁栄をもたらしました。
このパナマ運河を通行する船舶は1日平均で40隻ほどで、通行料は豪華客船などでは2000万円近くにもなるそうです。
全長およそ82kmの人工水路はまるで自然の川のような川幅があります。
ゆったりと流れるこの大運河は、人や物の流れを劇的に変えました。
≪マングローブ林≫
コイバ島は潮の満ち引きの差(干満の差)が最大で7mにも達します。
河口一帯には干潟が広がり、内陸にはマングローブ林が密生しています。
川をボートで遡りマングローブ林の奥地へと向かいます。
風に揺れる木の枝の先に小さな鳥の巣を発見しました。その大きさは直径わずか5cmほどです。
巣の中にはハチドリの仲間のヒナが2羽いました。
親鳥が帰ってきて、運んできたエサの花の蜜をヒナたちに口移しで与えています。
ハチドリの親は針のように細長く伸びた尖った嘴をしていますが、ヒナたちの嘴はまだ全然長くありませんでした。
≪6時間毎の潮の満ち引きのリズムが繰り返される≫
海は満潮から干潮、そして干潮から満潮へと移ろいます。
潮が引いて地面が剥き出しになったマングローブ林の中へ。
マングローブの木は根元が大きく膨らんでラッパ状に根を広げていました。海水に浸かる柔らかい泥の地面で倒れないようにしているのです。
マングローブの根元にはカニや貝が集まっています。それはまるで天然のゆりかごのようです。
ガイドのマリシーソ・バスティダスさん「カニや貝はマングローブの木の根元に付いた藻類や微生物を餌にしています。さらに根元を隠れ家に利用することで鳥やサル、イグアナなどの敵から自分の身を守っているんです。」
マングローブは生き物たちの餌場や隠れ家なのです。
潮溜まりをそっと覗いてみると、ハゼ科の稚魚たちが泳いでいました。大きな魚に狙われることのない格好の住処です。
1匹のアナジャコが現れました。稚魚たちが集団で取り囲むと、寄ってたかってアナジャコに総攻撃を始めました。
≪閉ざされた島で新しい種が生まれる≫
夜になり真っ暗なマングローブ林では幻の動物が動き出します。
ライトを消した暗闇の中でカメラのシャッターを切ると写っていたのはワニでした。
干満の差が大きな環境を好むのだそうです。
研究者たちに同行し生態調査のための捕獲作戦を追います。
幻のワニはマングローブ林を根城にしています。
物干し竿のような長い柄が付いた棒でアメリカンクロコダイルの子どもを捕獲しました。噛まれないように慎重に口を縛ります。
絶滅危急種とされるアメリカンクロコダイルは、成長すると体長4mを超え、最大で6mにも達するほどの巨体になります。
本土では絶滅が心配され、野生のものは滅多に見られなくなりました。
コイバ島に棲息するのは300頭余りです。
テーブルの上に固定して体長などの個体毎の詳しいデータを計測します。
脇からローブを回して量りにかけます。5.5kg
行動範囲や分布を調べるため、背中にGPS発信器を取り付けます。
新種の可能性があるといいます。
テキサス大学のセルジオ・アレハンド博士「アメリカ大陸のワニとコイバ島のワニを比較してどんな違いがあるか調査中です。ひょっとしたらこの島で進化した固有の種と認められるかも知れません。」
夜行性のため夜の海へと帰します。放たれた子ワニが水面を泳ぎ去って行きます。
陸から離れて孤立して2万年、生物たちは今も進化の途中です。
干潟の砂浜を覆い尽くすように動き回るのは、オカヤドカリたちです。
潮が引くと砂底から現れ、潮が満ちると砂底に消えていく。そんな6時間毎に繰り返される潮の満ち引きのリズムが生み出す一つの光景です。
生命を繋ぐ最期の避難所となったコイバ島、それは進化を続ける野生の生き物たちを乗せた”方舟(はこぶね)”なのです。
アクセス:パナマ共和国(Panama)
コイバ国立公園とその海洋保護特別区域
Coiba National Park and its Special Zone of Marine Protection
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